Chapter1 日出る国の少年

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第9話 Two Days After Tomorrow  ……。薬品の科学的な匂いがする。 ヒヅルが目を覚ますと白を基調とした部屋でベッドに横たわっていた。 確か僕は神社でエムルとかいう男に襲われて……。 立ち上がろうとすると、体に違和感がある。 どうやら、胸にコルセットを巻かれているらしい。 ゆっくり立ち上がり窓の外を眺める。 ここは、基地の医務室か。 前に訓練で大けがをして血が出た時、シキや同期が止血と包帯を巻いてくれたことを思い出した。  「目を覚ましたかね」 オガワが扉を開け入室してきた。 「君が基地をバイクで出ていくのを見た者がいてだね。 全く、緊急時とは言え然るべき人間に連絡してから外出したまえ」 司令官の言うことも最もだ。 「起きたところで早速済まない。愛宕神社でなにがあったのだ。 説明してくれ」 険しい顔でヒヅルをまっすぐに見つめながらオガワは問いかけた。 そうだ、報告すべきことはしなければならない。 「報告します……。 神社の境内で、帝国兵士と遭遇……交戦になりました。 名前は、『エムル』」 「エムルだと!」 オガワは何かを思い出したように声を荒上げた。 「知っているんですか、司令官!」 ところがオガワは何かバツの悪そうな顔をしている。 「い、いや……その名前は聞いた記憶はあるのだが、すまん……。 だが、名のあるエースであろうことは確かだ」 肝心なところでイマイチ役に立たないなぁ。 そういうところがこの人らしい、そんな気がしてきた。 「あとは”サナギ”のことを『フレームスーツ』と呼んでいました」 「あぁそれはだな。ブラダガム側が使い始めた人型兵器の呼称だ。 戦車、戦闘機に続く新しい兵器カテゴリと言う訳だな。 実際に人体を模した基礎フレームで作られた兵器だ、理にかなった名前ということで九重側も昨日より正式にそう呼称することになった」 実際今までヘビースーツやコンバットマシンなど、好き勝手呼ばれていた。 それが、名称統一されたことを意味していた。 きっとエムルもFS(フレームスーツ)のパイロットなのだろう。 「敵である以上、彼も僕が討たなければ……僕の家族や親友の無念は晴れません!」 「まあ待ちたまえよ。 今の実力と経験ではエースには太刀打ちできんだろう。 3日前のように一般兵には勝てても、だ」 「み、3日前ェ!?」 目を丸くし驚嘆する表情を見せたまま立ち尽くした。 「君が寝ていたのは丸々3日間だ。 発見時点では中々ひどい怪我だった……肋骨にヒビも入っておるしな」 軍が気絶した僕を発見して治療、そこから3日間経過……ということか。 自分の状況を改めて理解できた。 「その3日の間に、きちんとKN-630101Aの装備を拡充したぞ。 敵機の残骸からデータを解析した甲斐があった。 今からドックにて説明しよう」  ドックに入ってすぐヒヅルの眼に入ってきたのは、多くの整備員が新機体の搬入とヒヅル機を含めた全FSを整備をしている様子だった。 一部の機体は増加装甲や兵装追加がされ、中にはヒヅルが見たことのない機体もあった。 「さて、一つづつ説明しよう。 まずは敵の使用したビームセイバーを解析し開発・膝部に収納した。 元はコンバットナイフを収納するはずだったがな、より切断力と射程に優れるこちらを採用した。 スプリング機構で跳ね上げて、屈まなくても抜刀可能だぞ」 これで近接戦は一応安泰か。 蹴りや下手な奇策だけで戦う必要もなくなることは頭に入れておこう。 「あとは遠距離武器だな。現行の共和国製ピストルはゴム弾同然だ」 やれやれ、というポーズで苦々しげに笑う。 「そこで隣国・台湾連邦と協力し、セイバーの技術を応用したぞ。 それが、ビーム式のカービンとスナイパーライフルだ。 急造品ゆえ、連射は控えたまえ」 「現状、戦えれば満足です。ありがとうございます」 ヒヅルは深く一礼する。 きっとエンジニアも寝ずに働いたのだろう。 加えてスナイパーライフルという選択も、おそらく僕の交戦記録を基に採択したものだ。 それを考えたら、多大なる感謝を禁じえない。 ヒヅルは深くそう思った。 「それはそうだ、私達の命がかかっているからな! 引き続き、敵と武装のデータは他機体にも利用する。 実際に共和国全体でビームガンへのアップデートも始まっておるぞ」 相当急務で兵力拡充が行われている。 宣戦布告されたのだし無理も無いか。 兵士たちもフレームスーツに搭乗できるよう訓練が始まるのだろう。 ん?そういえば。 「あとビーム兵器でエネルギー消費量がな……。 水素エンジンの他に、補助の風力エンジンを積んでおいた。 飛行時のエネルギー消費くらいは賄えるぞ。 それと……」 ヒヅルには途中からオガワの言葉が耳に入ってこなくなった。 一つ気がかりなことがあったからだ。  ヒヅルが搭乗した時に起動した『太極図システム』のことである。 あの時は気にも留めていなかったが今考えればあれは一体? 実際の操縦もほぼ思考に則ったもので、特殊なものだった。 「オガワ司令官」 「想定されるカービンの弾数は……ん?どうした。 なにか気に食わない強化でもあったのかね」 真剣で真っ直ぐな眼差しで、問い詰めるようにヒヅルは尋ねた。 「たしか司令官は と言いましたね? それは、あの『太極図』のせいですか?」 オガワが顔色を変える。 聞かれたくないことを質問されたのであろうことは、焦りを浮かべたその顔から明白だ。 「わかった、あのシステムについて……知っていることを話そう」
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