Chapter1 日出る国の少年

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第10話 オカルトアラカルト  オガワは、神秘的な太極図システムのことについて語りだした。 「あのシステムは……だな。 いわゆる補助AIによる技術サポートシステムの最新型と聞いている」 補助AIシステムは、ヘブンズ・ギフトを元に60年前当時、秀才タクマ・キリムラが開発したシステムだ。 車や機械操縦の際に、事故を防ぐための搭載が原点だ。 だが、それだけでなるほど、とはならぬ。 『思考を反映して動く』部分が説明がつかない。 「ですが、それだけで思うままに動かすことは不可能です。 何か隠しているのではないですか?」 オガワは一寸黙りこくる。 「それを追及するとは……知っている限り話そう。 太極図システムを開発したのは、君の同期であるシキ・ヤサカなのだ」 「シ、シキが!?」 彼の頭脳が天才だったことは誰よりも僕が知っている。 それでもあまりに衝撃的な事実にヒヅルは驚きを隠せなかった。 「そうだ。彼はタクマの遺した構想を基盤にした。 そして神経系と機械を接続して、思い通りに動かすシステムへ昇華した。 負傷兵の義手・義足のためのプロジェクトと統合したのだ」 オガワは腕組みをしたまま淡々と続ける。 どうやら、彼は気を許すとペラペラと喋るようだ。 黙っていれば、情報をもっと聞き出せるかもしれない。 「しかし彼はそれに留まらなかった。 もし考え通りに兵器を動かすことができれば? それは練度の低い兵士でもパイロットが務まる。 それは部隊統率や生存率の向上に繋がる……そう考えたのだ」 「そこで実際にシステム活用に壁があったんですね?」 それに気づかぬほど、ヒヅルも馬鹿ではない。 オガワがまた一瞬押し黙った後、話し出す。 「実は『完全に人と機械を一体化する』ことは叶わなかったのだ。 ほぼ開発は成功したが、思考と機体に反応の誤差があったり、そもそも思考を動きに反映できない者もいた」  そうか、なるほど。今の話で漸く辻褄が合う。 "適合率が低い=思うどおり動かせない"ということだろう。 「ところが僕は適合率が高かった結果、まるで手足のように動かすことができた」 「そういうことだ、不思議なことにな。 勿論試作型ゆえ、照準や方向転換など細かい挙動は思考操作のみでは実現不可能だ。 ただし、詳しい開発方法は私も分からぬ。 実にオカルトチックなシステムよ」  ところが、今度はヒヅルの頭に新しい疑問が浮かぶ。 「では何故、僕はあのシステムに適合できたのでしょうか」 「それは正直私にもわからん。 親友であるお前向けの調整をした、とか」 なんとなくの推測でオガワが語る。 滅茶苦茶な、とも思ったが……シキが言ってた言葉を思い出してみる。 『君の力を最大限に引き出せる』 『君に向いた戦術兵器プランすら頭に入ってる』 その言葉を加味すると、オガワの推測も当たらずとも遠からずかもしれない。 そうか。僕が最大限に活躍できる絵が既にシキの脳内に描かれていたのだろう。 (……ありがとう) ヒヅルは心中で親友への感謝の言葉を贈った。  「結論、君はあのシステムで、思うがままに動かせる。 反面、機体は現状キミにしか扱えんということだ。 説明は以上だ。怪我をしてるにも関わらずすまんな。 病室に一度戻ってまたゆっくりしたまえ」  オガワは病室まで帰してくれた。 ご丁寧にも『早く戦線復帰しろ』との言葉まで餞別に、だが。 医務室の窓から日が暮れた外を眺める。 僕がベッドで眠りについていた3日間、遺体の処理や整地を終えて最低限機能するようにしたようだ。 (また戦場で会おう、ヒヅル。 もっと強くなった君をバラバラにできるのが楽しみだ) エムルの言葉が脳裏に浮かんだ。 いずれ彼とは刃を交えることになるはずだ。 彼と戦うことが家族と親友の魂を救う道にきっとなる、今はそう信じて前に進むんだ。 そのための力を、シキは僕にきっと授けてくれたのだろう。 確かに僕だけではエムルに勝てないかもしれない。 だけれど僕とシキ。 二人の力を合わせればどんな強敵にもきっと勝てるはずだッ! 少し笑顔を浮かべながらヒヅルは、エムルを、帝国を打ち倒すことを誓い胸に握りこぶしを当てる。 見上げる夜空には、東に隣合わせの小さな2つの星が、西の大きな一等星に負けないくらい輝いていた。 ______。 某所 九重評議会 「では……この場9人の意見は一致ということでよろしいでしょうか」 「無論」 「我らの自由のために」 暗がりの中、9人の大人達が話している。 年齢や国籍はバラバラのようだ。 円卓を囲み、スクリーンに何かを映し出し、決定を下しているようだ。 映し出されているのは……他でもないヒヅルであった。 飛び抜けて若い1人の男がつぶやいた。 「ヒヅル・オオミカ……彼の神秘性は、この世界に変革と秩序をもたらすことでしょう。 フフフ……見ものですね」
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