Chapter1.5 スパイダーズ・ウェブ

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第10.3話 承  件の廃神社「船渡(ふなと)さま」は市内の外れにあるため、行くこと自体はそう難しくはない。 15時を少し回る頃には、既に到着していた。 鳥居すら無く、経年劣化で岩塊と化した狛犬らしきものがある。 その脇には朽ちた木々と割れた瓦、ゴミ袋がいくつも置かれていた。 全体の様子は、管理されずに生い茂って草木が無造作に伸びた敷地内。 裏手の山に吸い込まれるように消えていく、少し上り坂の参道は石段の所々から雑草が顔を出す。 今は太陽が出てるが、確かに夕方以降にここを通ると不気味だろうとアキヒロは感じた。 「なるほど、これは雰囲気がある。 本当にいたら中々のものがでるんじゃあないか?」 「だろ、バイト帰りにここ一度通ったときにゾワッとしたぜ?」 「とは言え、まずは調査だ。 説明できない現象がおきたら、それは土産話になる」 怖がるカイを尻目に、アキヒロは楽しげな口調で、山に吸い込まれるように参道をずんずんと進んでいく。 歩みを進める道中も、アキヒロはまるで獣のように鋭い目で地面を観察している。 どんな小さな発見も見逃さないつもりだろう。 「こうやって地面を見てるとゴミが多いな…あっ、これ見ろよ。 このビール缶!数ヶ月前の新商品だ!」 「なんでお前そんな楽しそうなんだよ」 見た目に反してビビりなカイには下を見たり、楽しげに探索する余裕はない。 ただ無事に帰ることだけが頭にあるのみだ。  そうこうしているうちに本殿に着いた。 肝心の本殿は、ちいさな家みたいな見た目だ。 正面に階段があり、動物が入らないよう少々高床になっているようだ。 周囲には割れた壺や石材、枯れ木などが積まれている。 加えてあちこちに蜘蛛の巣が張ってしまい、少々汚い。 本殿の手前はこぢんまりしており、15m四方が開けてせいぜい小さな石の塔が2つ立ってるのみだ。 本殿の裏はもう草木が生い茂る山につながっている。 通れないことはないが薄暗い森なので不気味な様相を呈している。 「なんだ、拍子抜けするな。 なんもないじゃないか。 あっ補修の跡があるぞ。木の作りも悪くない。 当時腕の良い職人が作ったんだろうよ」 アキヒロはじっくりと境内の建造物を見ながら独り言をぶつぶつ言い続けた。 「でもなんだろうな、妙な違和感があるなぁ〜」 真剣な面持ちで、ぽつりと呟いた。 こっちは怖くて違和感どころではない。 「なぁ、本当に出たのは 『長い髪で血で汚れた服の女』なんだよな?」 裏手に回ったアキヒロがひょこっと顔を出しながら、石塔のそばで震えるカイに問いかける。 「あ、あぁそうらしいぜ。 先輩のそのまた先輩が見たらしい。 確かに長い髪に血で汚れた服だったって言われてるぜ」 「こっち来てみ。それ、多分判明した」 笑みを浮かべながら、アキヒロはサラリと答えるのであった。 「さて、早速謎を解き明かしますか」 と、言いつつサッと本殿裏に消える。 そこにカイが向かうとアキヒロの姿が見えない。 どうした、神隠しにでもあったのか?と思い突然カイは恐ろしくなった。 こんなところで急に1人残されたらたまったものではない。 背中をぞわぞわとさせる恐怖がじんわりとカイを襲った。  と、その瞬間 「ワッ!ここだよ、下だって」 「うわっ!ビビらせるなよ、やっていいことと悪いことがあるぞ!」 そこには本殿下の高床下に入っていける部分があった。 そこからアキヒロが声を上げて飛び出してきたもので、カイは大声で驚きながら一歩後ずさった。 「ははは!ごめんごめん!ここ入ってきてみろって」 まず1発ぶん殴ろうとも思ったが、ここは言われるがままカイも窪みに入ってみる。 「ここ、ちょうど雨も風も凌げるんだよ。 周りに積まれている木や石材が風をうまく防いでくれているな」 だからなんだ、それがどう女性の幽霊と繋がるのだろうか。 全く点と点が繋がらない。 「あ、理解してないって顔だな? じゃあもう一つ。そこらのゴミ。 ここだけ参道の新しいものと違って、4〜5年ほど前のゴミが集中してるんだよ」 だめだ、余計にこの憎たらしい黒髪野郎の説明が意味不明になってきた。 何が言いたいんだこいつは? 先ほどのイタズラで上がった心拍数が体にドクンドクンと響き渡る。 「本当に話が見えねえ。何言ってんだよ」 「だから、だ。 髪の長い女の幽霊の正体はホームレスだ。 ここでしばらく前まで生活してたってことさ。 ホームレスの伸びた髪と髭。 夕暮れ時の肝試しの時は、下を俯いた女に見えなくもない。 でもって、血で汚れた服。 これは薄汚れた服装を多分見間違えただけだ。 女と思ったなら尚更『女の幽霊=死装束』みたいなイメージが先行するだろうし」 どことなく、アキヒロの言うことは理解ができる気がする。 女の幽霊の特徴説明として腑には落ちる。 「じゃあさ。 ゴミと、この窪みは一体なんだってんだ」 「ここは雨風が当たらない。つまり生活が他よりしやすい。 その上で人が来ない分見つけにくい、つまり同じホームレスの競合に取られない場所なんだよ。 その証拠は古いゴミだ。 よーく見ろ?食べ物や飲み物をはじめ生活痕があるゴミばかりなんだよ」 あぁ、漸く点と点が線になりやがった。 一本の糸となって、カイの頭の中で繋がった感覚がした。 だがまだ疑問は残る。 「けどさ、どこに消えたんだそのホームレスは。 まさか死んじまったってことはないよな? 死んでたら遺体が見つかって事件になってるぜ?」 アキヒロの得意げな顔がより笑顔になる。 どうやら、その答えをすでに用意していたようだ。
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