Chapter1.5 スパイダーズ・ウェブ

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第10.7話 転  「その答えはこの丸まった新聞紙だ。 カイ、覚えてるかい?4年前に九重全体で有志の市民を徴兵する募集があったこと」 「あぁ覚えてる。叔父もあれで兵士階級になって今は大陸の方で調査とかやってたな。 意外と性に合ってたらしく叔父が今の人生に満足して………って、まさか?」 カイの頭の中にあった疑問という靄が晴れていく。 「おや、蜘蛛の巣がだらけの脳みそが稼働したようだな。 そう、そのホームレスはおそらく見栄えも変わって、どこかの基地にでも配備されてるんじゃないか? 事実、君はさっき『先輩の先輩が見た』と言った。 高校は3年制。先輩の先輩の時代なら4〜5年前の話としてピッタリ符合する」 アキヒロは続ける。 「まあ噂の元になった何かの事件はあったんだろう。 偶発的な人と"人の引き合い"や"間違い"が重なり幽霊話になっただけさ。 ホラ、幽霊なんていなかっただろう? 俺としては少し残念だがな」 本当に残念そうな顔をしながら言いやがる。 化け物が出てたら出てたで呪われるのは嫌過ぎるのだが、そんなことは彼にはお構いなしのようだった。  …ん?そう言えば一つ解決してねえポイントがあるな。 「だが、首が落ちる『ゴトッ』って音はどこから来たんだ? そのホームレスがゴミでも落としてた音、ってわけじゃないよな」 「それに関しては」 地べたにあぐらで座るアキヒロはこめかみに指をあてて考え込む。 「もう少し調べないと分からない。 森側は俺が調べるから、カイは境内を調べてくれ。 タネも分かったし、もう怖くはないだろう?」 「と、とりあえずタネはわかったが、それでも不気味だぞ。 とりあえず調べるよ」  カイは言われるがまま境内を見回した。 見つけられたものといえば、小さな寂れた本殿にお供えされたのか、誰が飲んでいたのかわからないワンカップや、風化して文字がもう見えない石碑、埋め立てられた井戸。 よく分からない石臼のような丸い直径40センチほどの石もあった。 ここで蕎麦でも引いて昔は食べたのだろうか。 あとは廃墟によくあるゴミばかりだ。 古いものから新しいものまで、殆どは誰かが捨てに来たものだろう。 30分ほど調べただろうか、森の奥からアキヒロが呼ぶ声がした。 「来てみろよ!これすっごいぜ!」 いきなり大声を出すなよ。 興奮する気持ちはわかるが静かにして欲しいぜ。 森に入ってすぐ、木が密集して立って影になった場所にアキヒロがいた。 「これだ、これが音の正体かもしれない。」 指し示す先にはタイヤの不法投棄…もそうだが、更に驚くようなものが捨てられていた。 それは大量のお地蔵様だった。 大小様々に40~50はあるだろうかという数だ。 ひっくり返ったり横たわったりしてるだけに限らず、割れたり逆さになっているものまで様々だ。 「なんだよこれ…不気味だな。なんでこんなところにお地蔵様が大量にあんだよ」 どことなく気分が悪くなってくる。 この森の湿気った空気のせいだろうか、この異様な光景からだろうか。 「おそらく、不法投棄だろう。 廃寺からこの山に捨てに来てるんだ。 宗教関係者か業者か分からないが、間違いはない」 罰当たりだ。 どういう理由があれど、仏様にしていい仕打ちではない。 この100年少々での急な産業革命。 時代が進むに連れ、人の心も荒んでいってしまったのだろうか。 お地蔵様の目をそっと閉じた顔を見つめると、哀愁を感じざるを得ない。 だが隣の青少年は現象の解明にワクワクしてしまい、その他一切の感情を感じてはいないようだった。 「ここまで来て捨てるなんて中々体力がいるよ。 『ゴトッ』って音はこの地蔵の不法投棄だ。 地蔵の上に地蔵をポイと捨てる。 その捨てる音を、たまたま肝試しとかで訪れる人が不気味に思う。 で、捨てに来てる側はいけないことしてる意識もあるから人が来たら隠れる。 この話と首を切り落とされた女性の怪談話が絡み合って 『首を落とされる音』に繋がるわけだ。 ほら見ろ、こうしてきちんと調べると幽霊なんていないだろ。 さ、戻ろう」 物事の真相解明ができて非常に嬉しそうだ。 ウキウキで歌を歌いながら来た道を戻っていく。 その後姿を追いかける前に、打ち捨てられたお地蔵様にカイは手を合わせるのであった。 人の手で勝手に作られ、勝手に救いを求められ、勝手に捨てられる。 そう思うと、手を合わせる気持ちになるのはごくごく自然の行為だったのかもしれない。  「あ、そうだ。こっちの見つけたもの報告してねえや。 なんか丸い石臼みたいなものが、ホラ。そこにあった程度だ」 石臼と思しき物体を指差すと、アキヒロは近づいてしげしげと覗き込んだ。 「どれどれ…あぁそういうことか。この場所に感じる違和感は”コレ”か」 一人で納得するがカイにはサッパリだった。 「なんでここに地蔵なのか。そして違和感の正体」 彼は1人納得し始めた。そして意外なことを口走った。
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