Chapter2 カンナギ飛翔 〜diviners High〜

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Chapter2 カンナギ飛翔 〜diviners High〜

第11話 Journey ~新たなる旅路~  「玄蜂Mk-2!左舷より新型空戦機3、旋回してビームマシンガン準備!」 「ヒヅル機!海中の敵機3機が海上に見えたら即座に狙撃しろ!」 隊長の言葉を受け、ヒヅルが呟く。 「隊長、お言葉ですが……」 丘の上に待機したヒヅルが海洋上のブラダガムの新型空戦FSを一機スナイパーライフルで撃ち抜く。 撃墜音と同時に、海中の敵機が二機顔を出し迎撃体制に入る。 「こっちがベターな策ですよ、っと! 今です!海上に出た機体群の真上から攻撃を!」 玄蜂Mk-2がビームマシンガンを撃ち込み海上に顔を出した敵を迎撃する。 「……!! この隙にカーハック部隊接近せよ!」 半壊した敵に九重共和国の海中戦FS、KKN-430424O カーハックが対水中ミサイルで牽制しつつ、ビームチャクラムで3方向から襲いかかる。 空と陸から囲まれた敵機は逃げ場なくチャクラムで胴体を一刀両断されて撃墜された。 「あとは消化試合!」 残りの敵空戦機はいとも容易くヒヅルのビームスナイパーライフルで胴体を打ち抜かれ沈んだ。 赤熱した銃身は、冷えて黒く鈍くなる。 「敵空母艦、撤退。 我々の勝利だ!敵の残骸回収!」 ______。 ヒヅルが、意識を取り戻して1ヶ月。 骨のヒビを治療する期間と、兵備拡充までの間の護衛として、ヒヅルは愛機と共に幾度も襲撃を除ける戦果を上げた。 その間、敵も新型を新たに開発して臨んできた。 しかし妙だ。 せっかく空母も用意しているのに、日の本地区全体は、低頻度でしか襲われていない。 帝国には、戦略的に攻めにくい土地なのだろうか。 元より亜人の駆逐を名目に戦争を仕掛けた割に、その動きも不審だ。 亜人優遇の経済特区である、日の本北東部、インディア地区、台湾連邦西地区など攻める方が、彼らの大義名分を遂行できる。 とくに台湾連邦西地区は、共和国⇆帝国国境のため、攻めやすいはずだ。 ところがブラダガムが攻めるのは海に囲まれた東南アジア地区や、氷の大地で攻めにくい北方地区に攻撃が集中する。 何か政治的意図があるのだろうか。 単に考えすぎだろうか。 まぁ東アジア地区は九重の中心だし、攻め込む意味はあると言えばあるのだが。 「ヒヅル、オガワ司令官がお呼びだぞ」 短く端的に、部隊長が言葉をかけてきた。 今度はなにを言われるのか? ヒヅルは気掛かりであった。 「司令官、失礼します」 「おお、来たか。かけたまえ」 柏の木でできた椅子から立ち上がるオガワに言われるがまま、応接用の椅子に座る。 即座に用意された茶を頂くと、芳醇で柔らかな匂いが、鼻をくすぐった。 「結論から話そう。君の配属が決まった。 新設エリート部隊『カンナギ隊』のメンバーに、君が抜擢された。 激戦区や、特別任務に当たることになるだろう。 併せて、正式にパイロット登録された。 キミの階級も曹長となる。 優秀な人間として認められたというわけだな……無論、私も鼻が高い」 湯飲みに口をつけながら、まっすぐヒヅルを見つめる。 「3日後に輸送機が到着する。 その輸送機で、台湾連邦沿岸地区に君は行く…… 今度こそ、しばしの別れだ」 別れ、の言葉が少しだけズシリと心にのしかかる。 どういう形であれ、とてもお世話になった1ヶ月だった。 「この1ヶ月ちょっと、ありがとうございます。 ですが、この基地は……」 「心配するな。 十分に戦力拡充も行ったし、統率の仕上がりも上々だ。 そう簡単に死にはせんよ。 話は以上だ。 これからも、この国の人々のために頑張りたまえ」 「そう言って頂けるなら、幸いです。 私の活動が、司令官の耳にも届くよう精進します。 それでは、失礼します」 ヒヅルは一礼をし、パタンと扉を閉めた。 ……。 「寂しく……なるな。 白木の箱に砂と石。 そんな姿で帰ってくるなよ」 室内に、山の端から差し込む茜色の空が、静かに差し込んだ。  とうとう、馴染みの深い土地を離れる時が来た。 あの日以来、ヒビの入った壁からすきま風がヒヅルに冷たく吹き付ける。 キョウトという土地で経験した、数々の出来事を思い返す。 友達との、学校での悪ふざけ。 父母と囲んだ食卓。 妹との些細なことでの諍い。 アキヒロやカイと、嘘ついて学校休んでバレて大目玉喰らった。 正直、母さんより父さんのご飯の方が美味しかった。 セイラのテスト勉強を、ゲームで邪魔して起きた喧嘩。 あの頃は負けたけど、今ならセイラにも負けないだろう。 そんなことを考えながら、首から大切にさげた筒に目をやる。 「父さん、母さん、セイラ。 必ず仇をとってくるよ」 既に5月も半ばを過ぎた頃。 基地の外では、ホオズキの花が咲き始めていた。 3日後、ヒヅルを迎えにくる輸送機が到着した。 「では、行って参ります」 「また会う日まで、さらばだ」 たった一言同士。 だが、彼らにはそれで十分であった。 その言葉を交わし、機体と共にヒヅルは乗り込む。 閉まる扉の向こうに、少しづつオガワのがっしりとした体躯が消えていく。 「ヒヅル曹長。 今回護衛任務を任された、オダと申します。よろしくお願いします。」 「ヒヅル・オオミカです。 よろしくお願いします」 ハの字眉毛をした、気の弱そうな青年が挨拶をしてきたため、ヒヅルも礼をする。 「もう一名、カンナギ部隊員が搭乗していますため、ご紹介いたします。 こちらです」 オダが座席シートにヒヅルを通す。 するとそこには 「こちら、カンナギ部隊所属予定の『ウォルノ・マイシー曹長』です。 陸上戦において、新型機を駆り、3分でゴブを10機撃破しております」 そこには、白と黒の体毛に覆われた、狼のような獣人がいた。 獣人とは言え、手や足の構造は人に近いようだ。 (亜人だッ!) 少し鳥の羽が生えている近隣住民や、猫のような耳と尻尾を持つ女生徒は確かにいた。 他のクラスなら、遠巻きに人間らしからぬ子も見かけた。 だが、ここまで人とかけ離れた亜人を直近で実際に見るのは、初めてであった。
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