Chapter2 カンナギ飛翔 〜diviners High〜

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第12話 Black Or White 前編  ウォルノは立ち上がり、ヒヅルに手を差し出す。 「ウォルノだ。コードネーム”ウルフマン”……いや”ヤクシャ”のパイロットだ。 年齢は20、見ての通り亜人と呼ばれる種だ。 おいおい、そんなにビビるなよ。 人狼(ワーウルフ)じゃねェンだ、噛んだりしないからよ」 冗談めかしているが、金色のキリッとした目の奥は至って冷静だ。 「ヒヅルです。 KN-630101Aのパイロットを務めており」 「武装を持たぬまま、機転のみでゴブ2機をたった1発の銃弾で撃破。 太極図システムのオリジナルに唯一高レベルで適合した17歳の神童。 だろ?」 ウォルノは口の端をニヤッとさせて返した。 「神童かは分かりかねますが」 ウォルノが後を続けたため、ヒヅルは少し驚いた。 知っていたのか。 「オイオイオイオイオイィ、そんな謙遜するなよ。 おっと、敬語もナシだ。 俺たちはこれから一緒に戦うチームメイト、階級も一緒。だろ? フン、しかし自分のFSに名前もつけてねぇのか? 自分の分身だろ? 名前くらいつけてやらなきゃあなァ」 確かに、ヒヅルは今まで自分の機体を、コードネームの"サナギ"か、型番でしか呼んでこなかった。 「確かにウォルノさん……いや、ウォルノの言う通りだ。 次までに考えておくよ」 「そろそろ離陸します。 お二人とも座ってください、行きますよォ!」 エンジンが動く音が響き、離陸する。 船出を祝福するかのような快晴が窓の外に広がる。 「なぁ、ヒヅル。俺はお前に興味がある。 それはなにか?簡単さァ、お前が戦う理由だ」 クールで寡黙そうな見た目に反し、意外と軽快によく話す男だ。 「僕の戦う理由ですか? いや……理由?それは」 「おう、それは?何だ、言ってみ」 口元にニヤリと笑みを浮かべつつ、ウォルノが促す。 「それは復讐です。 殺された、家族や友達。 その無念の気持ちを晴らすために、僕はこうして今ここにいます」 目線を少し下げ、胸から下げた筒を握りしめる。 彼にも戦う理由を聞いてみようか。 「逆に、ウォルノが戦う理由は……」 そこまで言いかけて言葉が止まる。 顔を上げると、先ほどと違う、まるで軽蔑したような目でこちらを睨むウォルノの顔があった。 「はァ〜〜期待はずれだ。 下らネェ理由を答えやがって」 え、今、コイツはなんと言った? "下らない"だって? 世界が急に色を失い、黒白になったようだ。 脳が投げかけられた言葉を拒絶している。 「下らないだと!? 大事な人を失って、仇を取ることの何が悪い!」 いきなり大声で吠え、噛み付くヒヅルに、ウォルノは全く動じずに淡々と答える。 「勿論、仇討ちの全部が全部下らんとは言ってねーよ。 けどなァ、それだけに固執して人殺しにいくってのは、欺瞞だ。 テメーはテメーに嘘をついている。 だから下らねぇって言ったんだ」 目も合わせず、あくまで理知的な語りをするウォルノ。 だが、その様子が余計にヒヅルを逆上させる。 「ッッッ!お前に」 ヒヅルの中の瞬間的な感情が、堰を切ったように沸き出す。 「お前に何がわかる!」 あんたは、今会ったばかりの僕のことをなんも知らない人だ! あんたはそれでも人間か!」 ピクリ、とウォルノが"ある単語"に反応する。 ヒヅルはウォルノの胸ぐらに掴みかかり、続ける。 「まるで僕の全てを判ってるかのように……」 言葉を遮るように、ウォルノは冷静にヒヅルの眼前で指をピンと立て、シーッのハンドサインをしてきた。 「キャンキャンと騒ぐな、次は俺に八つ当たりか? 弱い犬ほどよく吠えらぁァ……。 とにかくアンタが戦う理由はクロだ。まだシロじゃあねェ。 俺の戦う理由も教えてやろうと思ったが、お前がお前でちったぁ成長した時に、教えてやるよ。 いいな?答えは『はい』か『YES』だ」 コイツ……ッ! 怒りで頭は真っ白だったが、有無を言わさぬ鋭い目に、少しづつ冷静さを取り戻す。 ウォルノは、ヒヅルの黒い感情に染まった瞳に、徐々に精彩が戻るのを確認すると、雑誌をヒヅルに手渡す。 「落ち着いたところで、これでも読めよ。 こんなカストリ雑誌みてぇな怪しいモンでもヒマは潰れるだろ」 手渡された雑誌には、デカデカと 『政府に隠された超古代文明! 核戦争の真実』 と書かれていた。 こんなものの何が面白いのだろうか……。 30分もすると、ヒヅルは雑誌一本丸々読み終えてしまった。 古代に何度か超文明が各地で滅びたとか、宇宙人が実は政府に暗躍しているとか。 荒唐無稽なコジツケ論でも、少々興奮して夢中になってしまう。 ヒヅルもやはり男の子なのだ。 「どうだ、案外面白いだろ? 俺、こういうの好きなんだよな。 浪漫ッ!って感じでな、俺たちの機体もなァ……もしかしたら大層な秘密が」 ウォルノが話す途中で、大きな衝撃が走った。 機内が激しく揺れ、飲み物や雑誌が其処彼処に放り出される。 「なんだなんだァ!? 男の浪漫を中断するのは大罪だぜ?」 緊急と思しき事態に、ウォルノがシートベルトを外して、操舵室に向かう。 「敵襲です! レーダー反応、地上・空中共に5機!」 「地上は……ハァーン。狙撃機だな。 低空飛行して、やられたように見せながら、地上に俺を降ろせ! 最短で降りられるとこも探しとけよ!」 ウォルノが、手早く指示を出すなり 戻ってきた。 「ヒヅル、出るぞ! 俺の戦闘見ながら、戦う理由でも考え直しな!」 急いで2人はFSに乗り込み、出撃準備を行う。 「ここから50キロ地点に駐屯基地がありました!」 オダの声から焦りを感じる。 「じゃあ3分も耐えりゃあ上出来か。 頼むぜェ、オダさん」 「了解!降下準備!同時に両機、出撃可能! ハッチ、開けます!発進どうぞ!」 「ヒヅル!空は頼んだぜ」 「はい!……い、いや。あぁ!」 ヒヅルとウォルノの二人が迎撃へと出る。 ウォルノの脳裏にさっきのヒヅルの言葉がよぎる。 "僕のことをなんも知らない『人』だろ!" "あんたそれでも『人間』か!" 「……『人』か。 太極図システム TYPE-Mオーケー、システムオールグリーン! ウォルノ・マイシー、『ヤクシャ』、出るぜ!」 「太極図システム稼働、システムオールグリーン! ヒヅル・オオミカ、KN-630101A!行きます!」 輸送機のハッチから2機が発進する。
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