Chapter2 カンナギ飛翔 〜diviners High〜

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第13話 Black Or White 後編  ヒヅルはそのままブースターをふかし、空へ翔ける。 ウォルノは目前に迫った大地へと力強く立つ。 その瞬間、地面は土煙をあげて舞い上がる。 狼のような顔。 両手に爪がついた大きな手甲。 胸の装甲は、どことなく牙のついた肉食獣に見える。 足は獣型の逆転関節構造に、特徴的に大きく力強い膝部。 空中で、攻撃を掻い潜りつつ、ウォルノの方を見たヒヅルは声を漏らした。 「なんだ……まるで、狼男じゃあないかッ!」 ウォルノが、敵を見つめつぶやく。 「決めようぜ。 俺とあんたら、どっちが黒か白か」 同時に5機のゴブMK-2がヤクシャに襲いかかる。 全機がビームスナイプによる一斉射撃を行う。 「ぬるいねェ」 ヤクシャは一瞬身を屈め、空を大きく跳ぶ。 「と、飛んだ!でもこれじゃあ格好の的だ!」 目下で大きく跳ぶヤクシャの姿に、ヒヅルは驚嘆する。 だがヤクシャは左手の平からワイヤークローを射出、敵後方の地面に突き刺す! そのまま、右側のブースターのみをふかし、左へと大きく弧を描くように軌道する。 「まず1匹」 即座に、膝側面のセイバーを右手で抜き、水平に伸ばす。 地面にスライディングするように着地すると同時に、辻斬りを敵2体に決めていた。 「おっと、2匹落ちたな」 胴から真っ二つになったゴブMK-2をちらっと見る。 「は、早いッッ! ワイヤーで円状に移動しながら、その勢いで着地! まるで、振り子の鉄球だッ!」 ヤクシャが即座に左腕を後方へ振りかぶる。 「次はそっちのお三方! バスタークロー、飛んできな!」 左手の手甲が敵めがけ真っ直ぐに向かう。 迎撃のビームライフルを弾き、そのまま頭を吹っ飛ばす! 「体も貰おうかッッ!」 吹っ飛ばすと同時に、クロー部分で機体を引っ掛けそのまま手元へ回収する! 頭の無いゴブMK-2を盾にしつつ、残り2機へジグザグに滑空する! 眼前まで迫った時には勝負がついていた。 一瞬で2機の片方の右手クローで胴を貫き、残りを蹴り潰していた。 「悪いな。あんたらが黒だ」 そうウォルノは呟く。最後に掴んでいた敵に、そのままバスタークロー内部のビームガンを撃ち破壊した。 上空でゴブ フライトカスタム「バーロック」と戦うヒヅルは、そのあまりの決着の早さに声を失った。 (や、約1分半……ッ! シールドクローで直線上の攻撃を防御しつつ、戦闘不能にまで! 更に、機動性で強引な曲折移動! 繊細さと豪快さを兼ね備えたその様はまさに、大自然そのものだッ!) ヒヅルは、バーロックの脚部サーベルクローと、ショットガンのコンビネーションを掻い潜る。 5機のバーロックは、まるで死体に群がるカラスのようだ。 縦横無尽にヒヅルの周りを飛ぶ。 上空から3機連携のショットガンの雨が降り注ぐ! 「上かッ!」 前方へジグザグ状に回避・上昇する。 残り2機体が射撃をするも予測の難しい軌道ゆえ、1発も当たらない。 「見様見真似だけど、使えるじゃあないか! そこだッ!」 前転をし天地逆転のまま、追撃に来た2体に、ビームカービンを撃ち込み撃墜する。 「残り3機!散開した!」 天地が逆のまま、地上へ推力を上げる。 落ちるヒヅルに3機が群がる。 「流石に、斜線が通るようには動かないよな……なら!」 地上スレスレまで落ちて、そのまま滑空する。 3機のうち1機が地上に激突・炎上する。 「残り2機!………ッ!?」 しかしモニターには残りがロストしていた。 振り返ると、ヤクシャの両手のバスタークローがバーロックを貫いていた。 そのまま空に、2つの花火が上がるかの如く爆発した。 「こちらァ戦闘終了! オダさん、そっちは?」 「こちら、損傷軽微。駐屯基地に軟着陸成功! 戻ってください!」 ウォルノがヒヅルに向かって振り返る。 「おいおい、『空は頼んだぜ』って言ったじゃねェか」 「ありがとう……助かった」 モニター上で、ウォルノの顔が二カッと余裕の笑みを見せる。 「ヘッ、いいってことよ。さ、戻りますかァ」 ヒヅルが『あぁ』と短く返答して、飛んでいく姿を見つめながら、ウォルノがぽつりと言った。 「『ありがとう』か。こっちの台詞だっての」 黒白の機体は爆炎の中、空を見上げるのだった。
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