Chapter2 カンナギ飛翔 〜diviners High〜

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第17話 萃まる出会ひ  「カンナギ隊艦長、ミランダ。 キャプテン・ミランダ・クックだ」 どう見ても小中学生にしか見えない女子が、そこには待っていた。 腰まである銀髪、赤い瞳。大きな瞳は猫のようにつり上がっている。 「艦長って、ガ、ガキじゃあねえか……」 ウォルノは胸中の言葉をつい小声で漏らす。 「ガキとはなんだ!即刻除隊するぞ!」 「艦長、ステイです。曹長も謝りたまえ」 突如深く響く重低音の声が、2人を制する。 ミランダの側にいた鷹のような亜人が話しだした。 「特別任務執行部隊『カンナギ隊』副艦長のジェイ・ホークだ。 中東地区出身、50歳だ。 鷹に類するタイプの純亜人(アニマティア)だ、よろしく頼む」 顎髭のように羽毛をもふもふとさせた、厳しい鋭い目つきをした人だ。 ヒヅルが最初に感じた感想だ。 「失礼しました、艦長殿、副艦長殿」 ウォルノも緊迫した真面目な顔で失礼を謝る。 「そう硬く並んでよろしい。 ミランダ艦長は幼形成熟(ネオテニー)型亜人のハーフでな、仕方ないのだよ」 「そういうことだ。 感情的になった私にも落ち度はある。すまない」 意外と冷静かつ理知的な女性だ。  「最後にもう一人、到着済みのメンバーがいます」 軽く咳払いをした後、ギン女史が話を切り出した。 扉が開くと、そこにはツヤのある黒髪を三編みポニーテールをした、溢れんばかりのニコニコ笑顔の女性が立っていた。 「ニーハオ!張 雨桐(チョウ・ユートン)伍長デス! 艦のオペレーター!よろしくお願いしマス!」 左右均整の取れた美しい美貌、豊満な胸に軍服からでも分かる細い腰。 まるでスーパーモデルだ。 「彼女は、台湾連邦地区の出身で、"同時並列情報処理能力"を買われて抜擢された人材です」 「デモ旧ブラダガム領、中華地区出身ネー。だからブラダガムのハーフ…ふぇっ!?」 チョウの腰に手を回しながら、ウォルノが一気に詰め寄る。 「初めまして、チョウ伍長。俺はウォルノってんだ。 貴女のような才色兼備の女性がサポートしてくれるってんなら感激だ。 生まれも血筋も関係ない、末永くよろしく頼むぜェ」 ハァ……意外と手が早いんだなぁ…。 「エ、エット。これからよろしくお願いしマス……可愛い狼サン」 「かッ……?お、狼さん……そうかそうか……」 ……。確かにそういうところは可愛い男だよ。  「ウオッホン!さて、ワシが皆を呼んだのは理由がある」 咳払いに全員がビシッとし、ジェイが仕切り直す。 一体何を言うつもりなのか。 「……どうだ、この際夕飯を皆で囲まないかね?」 食堂の片隅で開かれた、簡素な食事会は鶴ならぬ鷹の一声で始まることとなった。  皆で手を合わせて『頂きます』と同時に、ヒヅルがジェイに話しかけられる。 「ワシが聞くところによると、オリジナルの太極図システムは君しか扱えんとか。 経験を積めばもっと強くなれるだろう、今後が楽しみだ」 鋭い目つきだが、優しく励ましてくれているのがよく分かる。 「言わずと知れた前大戦末期、中華地区奪還作戦で手腕を振るった猛将"ジェイ・ホーク少佐"。 恐悦至極に存じます」 「ハッハッハ、そう褒めるな。 そのうちワシとシーシャを吸いながら、ゆっくりと語らおう」 お、意外と得意げそうだぞ。  「そういえばジェイサン!何故アナタが艦長じゃナイナイ?」 キラキラした目でチョウが尋ねると、一息ついてジェイが答えた。 「実は当初ワシが艦長候補だったがな、ミランダ中佐を推薦状で艦長に任命したのだ」 「ほォ、じゃあ艦長はその猛将のお眼鏡に叶う実力ってェ訳だ」 ウォルノ、お前艦長ちょっとバカにしてるだろ。 「こう見えて彼女はニュージーアイランズ地区出身でな、士官学校を首席で卒業しとる」 「推薦状の件、感謝しております。偶然私の努力量が周囲を上回っただけです。あと……」 丁寧なナイフ捌きで肉を切りながらミランダが答える。 「『こう見えて』は余計ですよ?」 え、笑顔が怖い。 「ウォルノ曹長も、異常な戦闘センスと反射神経。 その武働きに期待していますよ」 「あいあいさァ。俺とヤクシャに任せてくださいよ」 ふ、2人とも笑みが怖い……。  その後の食事会は、楽しくも賑やかなものであった。 ジェイは聞いてもいないのにシーシャの魅力を語り、ウォルノは隙あらばチョウを口説こうとし、ミランダは皿を片付ける際に、ひっくり返して悲しくし出す始末だった。  「さて、皆の衆解散。 明日9時にはカンナギ隊のメンバーが全員到着予定だ。 就寝!」 片付けが終わった頃、ミランダの一声に各々が部屋に戻る。 「ヒヅル曹長」 ミランダはヒヅルに声をかけた。 「あなたに渡すデータがあります。 私から直接渡してあげるように、とのことです。 戦時下のため検閲は必須でしたが、中身は私しか知りません」 だから安心してくれということだろう。 そう言われ、一枚のSDカードを手渡された。  「あなたは最も特別な機体のパイロットです。 今後は私の命の下、十分に頑張ってください。 今日は長旅で疲れたでしょう。すぐに寝なさいね」 「待ってください、艦長」 ヒヅルがミランダを今度は呼び止めた。 「僕は艦長の下で良かった、と思っております。 理知的で大人の判断が行える、冷徹に見えて人に温かく寄り添える優しさ。 これからもよろしくお願いいたします」 「ばっ、バカなことを言うでない!子供は早く寝る!」 少し照れ臭そうに、腕を組んでその小さな背を向ける様子を、ヒヅルはつい微笑んで見てしまう。 「それでは失礼します」 ヒヅルは食堂を出て自室へと向かうことにした。 まだ戦う理由は見つからない、でも頑張ろうと思える1日だった。  「理知的で大人……か」 食堂には、桜色に染めた頬を両手で抑える、一人の少女が残されていた。 「今日のシーシャは格段と美味い」 「ンフフフ!これからがカオスで楽しくなりそうネー!」 「大人……大人って認められちゃった……」  各々がそれぞれの部屋で物思いにふける中、ウォルノはヒヅルに語り掛ける。 「なぁ、ヒヅル。ジェイのオッサンってさ」 「どうした、ウォルノ」 ジェイ中佐に、なにか警戒するポイントでもあったのだろうか!? それとも早速嫌悪感を感じたのだろうか。 「鷹なのに、一人称ワシなんだな」 「……」 こうして集結の第一夜は過ぎていくのだった。
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