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第17話 萃まる出会ひ
「カンナギ隊艦長、ミランダ。
キャプテン・ミランダ・クックだ」
どう見ても小中学生にしか見えない女子が、そこには待っていた。
腰まである銀髪、赤い瞳。大きな瞳は猫のようにつり上がっている。
「艦長って、ガ、ガキじゃあねえか……」
ウォルノは胸中の言葉をつい小声で漏らす。
「ガキとはなんだ!即刻除隊するぞ!」
「艦長、ステイです。曹長も謝りたまえ」
突如深く響く重低音の声が、2人を制する。
ミランダの側にいた鷹のような亜人が話しだした。
「特別任務執行部隊『カンナギ隊』副艦長のジェイ・ホークだ。
中東地区出身、50歳だ。
鷹に類するタイプの純亜人だ、よろしく頼む」
顎髭のように羽毛をもふもふとさせた、厳しい鋭い目つきをした人だ。
ヒヅルが最初に感じた感想だ。
「失礼しました、艦長殿、副艦長殿」
ウォルノも緊迫した真面目な顔で失礼を謝る。
「そう硬く並んでよろしい。
ミランダ艦長は幼形成熟型亜人のハーフでな、仕方ないのだよ」
「そういうことだ。
感情的になった私にも落ち度はある。すまない」
意外と冷静かつ理知的な女性だ。
「最後にもう一人、到着済みのメンバーがいます」
軽く咳払いをした後、ギン女史が話を切り出した。
扉が開くと、そこにはツヤのある黒髪を三編みポニーテールをした、溢れんばかりのニコニコ笑顔の女性が立っていた。
「ニーハオ!張 雨桐伍長デス!
艦のオペレーター!よろしくお願いしマス!」
左右均整の取れた美しい美貌、豊満な胸に軍服からでも分かる細い腰。
まるでスーパーモデルだ。
「彼女は、台湾連邦地区の出身で、"同時並列情報処理能力"を買われて抜擢された人材です」
「デモ旧ブラダガム領、中華地区出身ネー。だからブラダガムのハーフ…ふぇっ!?」
チョウの腰に手を回しながら、ウォルノが一気に詰め寄る。
「初めまして、チョウ伍長。俺はウォルノってんだ。
貴女のような才色兼備の女性がサポートしてくれるってんなら感激だ。
生まれも血筋も関係ない、末永くよろしく頼むぜェ」
ハァ……意外と手が早いんだなぁ…。
「エ、エット。これからよろしくお願いしマス……可愛い狼サン」
「かッ……?お、狼さん……そうかそうか……」
……。確かにそういうところは可愛い男だよ。
「ウオッホン!さて、ワシが皆を呼んだのは理由がある」
咳払いに全員がビシッとし、ジェイが仕切り直す。
一体何を言うつもりなのか。
「……どうだ、この際夕飯を皆で囲まないかね?」
食堂の片隅で開かれた、簡素な食事会は鶴ならぬ鷹の一声で始まることとなった。
皆で手を合わせて『頂きます』と同時に、ヒヅルがジェイに話しかけられる。
「ワシが聞くところによると、オリジナルの太極図システムは君しか扱えんとか。
経験を積めばもっと強くなれるだろう、今後が楽しみだ」
鋭い目つきだが、優しく励ましてくれているのがよく分かる。
「言わずと知れた前大戦末期、中華地区奪還作戦で手腕を振るった猛将"ジェイ・ホーク少佐"。
恐悦至極に存じます」
「ハッハッハ、そう褒めるな。
そのうちワシとシーシャを吸いながら、ゆっくりと語らおう」
お、意外と得意げそうだぞ。
「そういえばジェイサン!何故アナタが艦長じゃナイナイ?」
キラキラした目でチョウが尋ねると、一息ついてジェイが答えた。
「実は当初ワシが艦長候補だったがな、ミランダ中佐を推薦状で艦長に任命したのだ」
「ほォ、じゃあ艦長はその猛将のお眼鏡に叶う実力ってェ訳だ」
ウォルノ、お前艦長ちょっとバカにしてるだろ。
「こう見えて彼女はニュージーアイランズ地区出身でな、士官学校を首席で卒業しとる」
「推薦状の件、感謝しております。偶然私の努力量が周囲を上回っただけです。あと……」
丁寧なナイフ捌きで肉を切りながらミランダが答える。
「『こう見えて』は余計ですよ?」
え、笑顔が怖い。
「ウォルノ曹長も、異常な戦闘センスと反射神経。
その武働きに期待していますよ」
「あいあいさァ。俺とヤクシャに任せてくださいよ」
ふ、2人とも笑みが怖い……。
その後の食事会は、楽しくも賑やかなものであった。
ジェイは聞いてもいないのにシーシャの魅力を語り、ウォルノは隙あらばチョウを口説こうとし、ミランダは皿を片付ける際に、ひっくり返して悲しくし出す始末だった。
「さて、皆の衆解散。
明日9時にはカンナギ隊のメンバーが全員到着予定だ。
就寝!」
片付けが終わった頃、ミランダの一声に各々が部屋に戻る。
「ヒヅル曹長」
ミランダはヒヅルに声をかけた。
「あなたに渡すデータがあります。
私から直接渡してあげるように、とのことです。
戦時下のため検閲は必須でしたが、中身は私しか知りません」
だから安心してくれということだろう。
そう言われ、一枚のSDカードを手渡された。
「あなたは最も特別な機体のパイロットです。
今後は私の命の下、十分に頑張ってください。
今日は長旅で疲れたでしょう。すぐに寝なさいね」
「待ってください、艦長」
ヒヅルがミランダを今度は呼び止めた。
「僕は艦長の下で良かった、と思っております。
理知的で大人の判断が行える、冷徹に見えて人に温かく寄り添える優しさ。
これからもよろしくお願いいたします」
「ばっ、バカなことを言うでない!子供は早く寝る!」
少し照れ臭そうに、腕を組んでその小さな背を向ける様子を、ヒヅルはつい微笑んで見てしまう。
「それでは失礼します」
ヒヅルは食堂を出て自室へと向かうことにした。
まだ戦う理由は見つからない、でも頑張ろうと思える1日だった。
「理知的で大人……か」
食堂には、桜色に染めた頬を両手で抑える、一人の少女が残されていた。
「今日のシーシャは格段と美味い」
「ンフフフ!これからがカオスで楽しくなりそうネー!」
「大人……大人って認められちゃった……」
各々がそれぞれの部屋で物思いにふける中、ウォルノはヒヅルに語り掛ける。
「なぁ、ヒヅル。ジェイのオッサンってさ」
「どうした、ウォルノ」
ジェイ中佐に、なにか警戒するポイントでもあったのだろうか!?
それとも早速嫌悪感を感じたのだろうか。
「鷹なのに、一人称ワシなんだな」
「……」
こうして集結の第一夜は過ぎていくのだった。
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