Chapter2 カンナギ飛翔 〜diviners High〜

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第18話 Rally & Breaking down !! 前編  明け方前に目が覚めてしまった。 夜の闇は不安を増大させる、と言う。 隣で寝るウォルノを尻目に、ヒヅルは一人考え込みはじめた。 未だ家族やアキヒロを失った悲しみや、復讐の思いが離れない。 重圧となり、胸を押し潰す。 一方で、隣にいる彼の言葉もまだ心に響く。 僕の行動理念は、どうやったら。 迷ったまま、彼らと戦いぬけるのだろうか。 雑多な感情と、自己嫌悪が深い痛みを残す。  そういえば艦長から渡されたSDには何が入っているのだろう。 データを移して開封する。 「……?メール?」 たった一通の音声メールだけが入っていた。 興味と不安が入り混じる中、震える指でタッチする。 「このメールを読んでいる、ということは君も無事なのだろう。 最初に明かそう。君の機体に積んでいる太極図システムは、僕が開発したものだ」 あの日、基地で別れた親友の声が耳に流れてきた。 「偶発的だが、約束した『君が最大限に活きる』を達成したことは僕も感慨深い。 『何故そうなったのか』は、まだ研究途中だけれどね」 無事にシキが生きていると思うと、とても気力が湧いてきた。 「僕は引き続き某所で厳重な警護のもと、機体開発を続けている。 安心して欲しい、と言いたいがここも100%安全とは言えない。 絶対安全、とは戦争が無くなったその時だけだ。 天照大神(アマテラスオオミカミ)という女神を君は知ってるかな? ……いや、前に僕が話したかも。 その女神は太陽神なんだけどね。 姿を隠せば世に災いが蔓延り、現れれば遍く世界を照らす希望となるそうだ。 君たちが太陽神のように、世界を照らす希望になることを僕は切に願う。 また元気で会おう」 天照(アマテラス)、太陽……か。 僕の初陣も、太陽が味方だった。 窓の外、世界を照らす女神が、徐々に山の端から顔を出し始めていた。  朝の始まりと共に、新たな一日の光が差し込む。 「ヒヅル、ウォルノ!入るぞ」 その時、ミランダ艦長とジェイ副長が2人の部屋を訪れた。 「早速だが、1時間後に私達の仲間が大方揃うぞ」 「ふぁぁ……了解しました、艦長どの」 ウォルノがあくびをしながら、ボケた顔をしながら着替えている。 「それと、ヒヅル。少しいいかね」 ウォルノが着替えている最中、ミランダとジェイに部屋の外へ呼び出される。 「ヒヅル、私たちは仲間だ。 君が抱える悲しみや不安、友への想い。 これからも理解していこうと務める。 一人で抱え込まないで共有して欲しい」 ミランダが柔らかく言葉をかけてくれる横で、ジェイがクックッと笑っている。 「艦長はな、君を気に入っているということらしい」 「ひ、一言余計だ!」 恥ずかしそうにミランダは怒った。 そうか、艦長はメール内容や僕の経歴を考えて、励ましてくれているんだ。 「ありがとうございます」 理解・支え・助け。その手助けに感謝の気持ちが湧いてきた。  午前9時。遠くの空から音が聞こえて来る。 その音はひとつ・ふたつと増えていき、多くの輸送機の姿が現れた。 ミランダはじめ先の5人は降り立つ機体から、降りてくるカンナギ隊のメンバーを敬礼で出迎えた。 ヒヅル達を合わせて56名。 優秀な九重の雄(ゆう)達が揃ったのだ。 「残り4名、遅れているが始めるとする。 私が今後、お前達を指揮するカンナギ隊 艦長のミランダだ! 我々の任務は、特別拠点の防衛・強力な障害の排除や敵の主力級の撃破支援など複雑にして難易度の高い任務となる!」 彼女はハキハキと口上を述べる。 「生半可な連携や判断は命取りだ。 どんな時も互いを信頼し、支えること。 大一大万大吉!一人は皆のため、皆は一人のために尽くせば艱難辛苦を乗り越えられるだろう!」 各所から拍手があがる。 キビキビと語る様子を見て、改めてこの人は有能な艦長だと感じる。 「次に」 ミランダ艦長が、カンナギ隊の目標や任務について概要説明を開始した。 「我らの最初の任務は、とうとう突破されたモンゴル地区国境線の奪還である。 そのため我々は、新造の戦艦で空へ発たねばならぬ。 ついてこい!」 現状共和国は、空を飛べる戦艦はあれど制空権を得るほどではない。 と、なると新造された艦はそれほどの力があるのだろうか。 山岳内部を削り作られた格納庫へ、皆で一糸乱れず歩む。 最奥部へのセキュリティをミランダが解除する。 鍵がひとつひとつと開くごとに、ヒヅルは興奮が高まるのを感じた。 「これが」 光り輝く群青のボディ 「我々、特別任務執行部隊『カンナギ隊』の旗艦」 眩しいほどの白銀色の差し色 「ニギハヤヒ級 壱番艦」 空を切り裂く剣のようなシルエット 「カンナギ、だ」 隊員達から感嘆のため息が各所から漏れる。 美しい造詣だからだけではない。 まさに地上に降臨した神のごとく、崇高な力強さと荘厳さであったからだろう。 「今より1時間、艦内見学を兼ねた自由行動の時間とする。 積み込みが完了次第、出発となる。では一度解散!」  とりあえずお世話になる艦内を見よう。 30分ほどでメンバーズルームや食堂・ミーティングルームなどを経由して、メインブリッジに着いた。 ブリッジは非常に美しかった。 ガラス張りの見晴らし良いであろう広い窓。 きっと飛行時は広大な空が見えるのだろう。 「巨大な艦だ……。そうは思わんかね?」 モニターや機器類配置を確認していると突然、声をかけられた。 筋肉質のガタイのいい体。 ハチマキに黒髪に顎髭のワイルドな風貌。 鼻に頬の一文字傷がいかにも漢、といった趣の男がそこには立っていた。 「操舵手、ヨシヒロ・ムラカミ(村上 吉広)。おめぇさんは?」 「ひ、ヒヅル・オオミカです。年齢は16歳で……その」 「16?わしの10コ下か」 その風格に少々気圧される。 多くを語らない漢はベテラン漁師のようだ。 「まったく、もっとフレンドリーにしよ?高圧的だねぇ~」 けだるげそうな声が2人の耳へ届いた。 「なんだァ てめェ……」 「すまんすまん、申し遅れた。ぼかぁクニトモ・シライシ(白石 国倫)。整備士長でさ」 痩せ型に中背の男が名乗った。 目の隈少々不健康な印象だ。 ゆるい天パのボサ髪に、眼鏡をかけた姿は如何にもマッド……いや案外常識的な人かもしれない。 「キミィ、例の機体のパイロットだね? あの子の扱い荒いなぁ?ウィング基部のパーツ摩耗してんよ」 「えっ、僕の機体を調べたんですか!?」 「見たらわかるって。あの機体自体が特別なことも、ねぇ~。 そうだ、ちょいっと解体(バラ)して調べちゃお?」 「ダメですよ!」 前言撤回、見た目通りの人だ。 「ははは!冗談だ~ってば。冗談冗談。 ま、2人ともよろしくなぁヒヅル少年、ヨッシー」 「愚弄するのか?姫若子」 ギロリ、とヨシヒロが睨む。 「うぇぇ、姫若子はヒドイナー!確かにぼかぁね、ヨッシーみたいに筋繊維の塊じゃあないよ?」 煽ること煽ること。 体育会系と理系の極致のような彼らは互いに気が合いそうにないな……。 2人が喧嘩するのを見ていても埒が明かない。 ちょっかいを出すクニトモと、それをハエのようにウザがっているヨシヒロ。 2人を放置してそっと操舵室を抜け出すことにしたのだった。
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