Chapter2 カンナギ飛翔 〜diviners High〜

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第19話 Rally & Breaking down !! 後編  ドックにたどり着く。 そこにはヒヅル達の乗機が既に運び込まれていた。 ……僕の機体整備をクニトモさんに預けるのか。 ちょっと不安になる。 見たことのない最新機体もいる。 『特別任務部隊』ということで予算が割かれているのだろう。 愛機を見つめて今までを思い返す。 僕はこれからの激戦の中で、戦う"本当の"意味が見つかるのだろうか。 『世界を照らす希望になってくれ』 突然にシキの言葉を思い出す。 その言葉を今は信じてみよう、友の作った機体を見つめてヒヅルはそう思った。  ふと乗機の奥に、特別に色が違う機体がいる。 橙色のやけに目立つ機体、その足元に人影が見えた。 「あの、すいません。僕はヒヅルって言います。 コードネーム"サナギ"のパイロットで……ッ!?」 その人影が振り向いた時、ヒヅルは息を呑むほど驚いてしまった。 無理もない、イヌやキツネのような仮面を付けた妖しい雰囲気なのだ。 「……フィリス」 輝くオレンジ色の長髪の少女は、そう一言呟いた。 冷たくも淑やかな女性の声だ。 「え……?」 「私の名前よ。新型機『キャーシャ』カスタム機、マドゥ=クシャのパイロット兼軍医補佐」 ……。や、やりにくい! 見た目から近寄りがたい雰囲気に、ぶっきらぼうなやり取り。 円滑なコミュニケーションを取れというのが難しい。 「選ばれた、ということは貴方も()()()()()()()()()」 「そ、そうなのかな。偶々戦果を上げちゃったから」 「ん?まぁいいわ。 で、貴方はなんのために戦うのかしら?」 今、明確な答えが出せない問いを、フィリスはまるで見透かすかのようだ。 復讐のため、希望のため……どう答えるのが正解か分からず、ヒヅルは押し黙る。 「ハァ、即答できないのね。 戦場では迷いと判断の遅れは死に直結する。 皆の足を引っ張らないことね」 冷たく言い放ち、ヒヅルに目もくれず立ち去ろうとした。 「あの。フィリスはなんのために戦ってるの?」 答えが欲しかった。彼女のことを知りたかった。 様々な想いを巡らせて、咄嗟にヒヅルは質問をしてしまっていた。 「……。たった一人の、誰よりも大事な人を守るためよ」 振り向きもせず、足を止めて一言答えるだけだった。 大事な人を守るため。 すこし暗闇に希望の光が一筋、差したのかもしれない。 そう漠然と思うのだった。  そのやり取りを最後に再集合の時間となった。 再集合後は、全員で物資の積み込みである。 食料や弾薬はもちろんだが、見たことも無い武器パーツやスーツも運び込まれている。 「ほォ、アンドロイド素体にM(ミッション)A(アームズ)W(ウェポン)と4m・8m級PS(パワードスーツ)も提供されんのか。 俺ら、中々贅沢な部隊に配属になったようだぜ、ヒヅル」 突然横からウォルノが缶詰の箱を持って現れた。 「M・A・Wと、パワードスーツ?」 「なんだァ、知らねえのか。 オレらの機体にもウェポンラックあるだろ? そこに装備したり、共通規格フレーム部に換装するンだよ。 長距離戦ならビームランチャー、接近戦にトンファー、とかすこーしその場対応できるってわけよ」 オガワ司令官、僕はそんなこと知らされてないぞ……。 「んで、パワードスーツはFSの前身だな。 生産コストが安く、小回りがきくってんでFS部隊の小隊員にも採用されてる優れモンだ。 歩兵としちゃア優秀だぜ」 こっちは戦争史の授業で聞いたことがある。 戦車・戦闘機に次ぐ兵器だし、今でも有用性があるのか。 「ま、期待されてンだ!働こうぜ。 この後の懇親会までにさっさと仕事終わらせちまおう」  積み込みの後、本当にブリーフィングルームで懇親会となった。 ヨシヒロと艦長は打ち解けている様子を見れたり、チョウと話すフィリスがオシャレの話をしていたり意外なみんなの一面を見ることができた。 みんなの様子を伺いつつ談笑していると、ウォルノに襟を掴まれた。 「オイ」 「な、なんだよウォルノ」 「あのフィリスって女なんなんだアレ? あんな仮面してよォ、スパイとかじゃあねえのか?」 ウォルノは女性乗組員たちと話すフィリスを睨み、マズルをひくひくさせた。 「あの子は、多分悪い人じゃないよ」 「ホゥ、どうしてそう言える?」 「彼女は僕に言ったんだ。『誰よりも大事な人を守るため戦う』って」 少し俯き、そうつぶやく。 「ハッ!女はどんな嘘付くかわかんねぇぜ。 あんな風体のガキ、信用できっか?」 ウォルノの言うことも一理ある。が、あのときの彼女の言葉は嘘には思えない。  「ハァーイ!みんな注目ネ! 美味しい日本酒、もらったヨ!みんなでちょこっと飲むネ!」 底抜けに明るいチョウの声がルーム中に響く。 「チョウ。ワシは有事を考えて勧められんぞ」 「まぁ、副長。たまにはこういうのも良しとしましょう。少しなら、ね。 飲むならいつ死んでもいい、という自己責任でだぞ!」 艦長の一声に歓声が上がる。 「おや、艦長殿は飲まないのか?それとも飲めねェンですか」 「むむ、だからガキじゃないと言うておろうに」 ウォルノ……だから艦長を煽るのやめろってば。  結局半分ほどの隊員にお酒が入り、じき宴もたけなわとなった。 「さぁ、我らは明日此処を発つ! 厳しい戦いへの船出だ、ゆっくり休め! では明日、6時艦の前に集合!」 その瞬間の『はい!』と言う皆の声は、大きな爆音にかき消された。 何が起きたのか、誰も分からなかった。 突如鳴り響く警報に、張り詰めた空気が宴会の空気とコントラストを描いている。  「敵襲!敵襲!各員配置に付け!繰り返す!」 基地中に戦闘態勢を促すコールが広がる。 「仕方ない……全員今すぐ艦に乗り込め!」 ミランダが号令をかける! 「やっぱり、俺達は狙われていたってことじゃあねェか!ヒヅル!」 ウォルノが昨日漏らした不安は的中していた。 僕は、僕はまたキョウト基地の時のように失うのか。 同じ思いは、二度としたくない。 戦わなくちゃ。 その思いを胸に、ウォルノの後を追ってカンナギへと向かう。  「もう発進準備はOKさね、背部パーツ交換も済んでるよぉ。 M・A・Wはラックに背部ジェネレータ直結のビームランチャー。 腕にはビームブーメランだ!」 「クニトモさん、ありがとう!」 変わらず緊迫感の無いクニトモさんに感謝しつつ、ヒヅルはコクピットに乗る。 『神経接続 完了』 『太極図システム 試作型起動』 『パイロット適合率 88%』 『KN-630101A 機動』 初めてこの機体に乗った時のことを思い出す。 太陽に助けられた時の、あの陽光を。 今度は、やらせない。 僕が、太陽のように世界を照らす希望になるんだ。 そう、アマテラスそのものに。 「アマテラス」 そうだ。 「君の名前だ!僕の愛機の名はアマテラス! 僕がッ!今!そう君に名付けたッ!!!!」 ヒヅルの両眼には、今までと違う戦う意志が、少しづつ少しづつ宿り始めているのであった。 始めているのであった。
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