Chapter3.5 合成のクラスメイト

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Chapter3.5 合成のクラスメイト

第26.1話 合成のクラスメイト  10年前。 日の本北東部のとある街。 太平洋に面したこの街は、数年前に核融合炉の発電設備が開発されて以来、北東部でも最も発展した大都市となった。 同時に、科学技術者が大量に移住し始めた。 上がらぬ出生率の中、科学の扉が拓かれたのだ。  そんな土地に、ウォルノ・マイシー少年は家族と共に引っ越してきた。 彼の父は科学技術開発者、母は元考古学者と、智慧の才に恵まれた亜人の一家である。 亜人、と一口に言えどもその様相は様々である。 エルフやドワーフに相当する、ヒトに近い「ヒューマティア」 獣的な要素を持つ亜人類『アニマティア』 水生生物的な『アクアティア』 鉱石などを主とした無機物質的な『エレメンティア』 以上を大枠に、居住や特性は全く違う。 7〜8割はアニマティアに属するものの、それぞれに合わせた法や仕事の整備は迅速に進められた。 言語コミュニケーションも可能であれば、一部は飛び抜けた才能や知能を持ち合わせるため、今やヒト含め対等な権利と人権を持ち合わせている国や地域がほぼほぼである。  だが当然、今まで亜人の少なかった土地では最初ばかりは驚かれるものだ。 亜人が初めて多く流入したその土地に、アニマティアであるマイシー一家は引っ越してきた。 「噛まれたりしないかしら…」 「治安が心配よね…」 「暴力的で怖そう」 最初こそ近隣住民の反応こそ、一家の姿を見て不安に思う声は多かった。 だが、理知的で明るいマイシー夫妻の姿を見るうちに、周囲の反応も変わり打ち解けていくのはすぐであった。  だが、ウォルノ少年は違ったのだ。 幼い頃は両親譲りの知的好奇心ゆえか、内向的で本ばかりにかじりつく……そんな少年であった。 内向的かつ転校生、極め付けは亜人だったウォルノは当然ながらイジメの格好の的であった。 「返してよ!僕のランドセル!」 「返してやるよ!ホラ、取ってこい! 犬だろ?自分のものくらい取ってこい出来るだろ?」 「犬なら犬らしくワンワン鳴けよ!」 いじめっ子に、乱暴に放り投げられ続けたウォルノのランドセルはボロボロであった。 それはまるで、周囲の心無い言動で傷ついた彼の心を表しているかのようであった。 ある時は『犬に服は必要ない』とハサミで服を切り裂かれ、またある時は首輪をつけられ、無理やり引きまわされて傷だらけになった時もあった。 それは中学校に上がっても変わることはなかった。  受難の日々を受け続けたある日。 とうとうウォルノは"ある事件"を起こしてしまう。 汚い犬をよく洗いまーす、とイジメの主犯格がバケツ一杯の水にウォルノの顔を沈め続けたその時。 命の危機を感じた彼は、目一杯の力で抵抗し、思い切り肘打ちをした。 肘打ちはイジメ主犯の鳩尾に入り手が緩むどころか気絶するほどであった。 そこからは怒りと恐怖でタガが外れ、止めようがなかった。 イジメグループ全員をそれはもうボッコボコにしてしまったのだ。 亜人の自分が本気を出せば、ヒトは一捻りだ。 そう気づいてしまってから、彼はドンドンと非行に走るようになり、いわゆる不良として今まで溜まりに溜まった鬱憤を晴らすが如く荒れ回ることとなる。 それでも彼は腐っても本の虫。 その性分を活かしてたくさん勉強し、地元では1番の進学校に通うこととなる。 喧嘩のケの字も知らないインテリの中に、素行不良の亜人が1人。 いつも彼は皆から浮いていた。  「ケッ、誰も彼も俺を対等に見ようとはしねェ。 大人しくしてりゃあ姿形の違いからイジメ続けて、乱暴を働けば不良だなんだと近づいてもこねぇ。 俺が生きてる意味なんてあるのだろうか」 木の上に腰掛けて、教科書を流し見しながら独り寂しく彼は呟く。 そんな高校生活が丸1年続いた。 彼だけが独りぼっち。 人を信じる気持ちも、歩み寄る気持ちも、とうに忘れてしまったのかもしれない。  だが2年生の始業式に、彼の人生は大きな転機を迎える。 「この度、弊校では技術導入実験として、クラスにアンドロイドが加わることとなった」 クラスメイト達がざわめく。 「男か?女かな?」 「そもそもロボに性別あんのかよ」 「カタコトしか話せなかったりして」 ケッ、馬鹿馬鹿しい。 なァ〜〜〜にがアンドロイドだ、面白くもねェぜ……。 どうせアホくせーロボットだろ。 すっかりと捻くれたウォルノは、一欠片の期待さえ抱くことはなかった。 「彼女が今回開発されたアンドロイド01 『プルメリア』だ」 扉が開く。 なんと、入ってきたのは。 真っ白な髪、金色の瞳に幼気な小柄な姿。 その表情ひとつとっても端正で、本物(にんげん)らしい顔をした美しい少女だった。 「アンドロイド01 プルメリアです。 私は人より人らしくを目指して作られました。 人間を知るため、私はここにいる。 よろしくお願いします」 頭を下げる、その彼女は合成品(つくりもの)。 そんなことは信じられぬ、とウォルノは目を疑う。 そう、その日から。 天然であったその空間に、『合成のクラスメイト』が加わったのである。
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