Chapter0 Prologue

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第2話 Problems  九重内海上空。 「こちら五百十四番、戦闘機『玄蜂』! 海上からキョウト方面へ飛行する兵器群!その数2! 戦闘機じゃないぞ!」 「何ビビってるんだ!ただでさえキョウトは重要拠点のひとつ。 俺たちが守ってやろうじゃあねえかッ!! 全機、対空ミサイル『刺毒』一世発射!」 多数のミサイルが、正体不明の機影に向かって空を駆け、踊る。 その刹那、陽よりも眩しい明光が広がる。 「そんな、まさか!!敵影以前健在!着弾ゼロ!」 「オイオイオイ!ミサイルを全弾撃ち落としたってのか!? う、うわああぁぁ!!」 一筋の青い閃光が、鶴翼に広がる3機の左羽を貫いた。 「五百十五番ンンン!!なんだ、なんだあれは!! ひ、ひと・・・・人型の! メーデーメーデー!こちら九重内海上空で正体不明の……」 その声を最後に海には鉄塊が、空には2つの人型のナニカが雲を残してゆくのみだった。  「諸君、『東桜の春』から1年、少々の月日が過ぎた! 諸君は1年の軍事訓練を受け、今一人ひとりが勇猛果断なる兵士として! 我ら九重共和国の日の本地区の防人となる日が、まさに今日、きたのだ!」 共和国・帝国間の沿岸部紛争の一部「東桜の春」。 この事件以降、九重共和国は各地で軍事基地を再稼働。 "先の百年戦争の英雄に続く兵士を育て上げ、共和国を守る" 以上が評議会で議決された。 キョウト沿岸のアマノハシダテ軍事基地。 共和国を守る兵士一期生が、各地に配備される時がいよいよ来た。 「諸君らはこれから、終わりのない泥沼の戦地に送られる。 我らが愛する平和のため、その礎となるために命を捧げたまえ!」  卒業の儀。 軍事基地司令官のヒデアキ・オガワの演説が、初春の青空に響き渡る。 青年たちは宴会の中、しっかりと傾聴している。 「___さぁ、顔を並べて泣き、笑い、語らうことも最後だ。 共に国を守ると誓い合った日に、称え合う宴会といこうじゃあないか」 オガワ司令官は、式の最後に笑顔を浮かべてそう述べると演説は終わった。 喝采と拍手の中、式辞を述べた男がヒヅルに悠然と近づく。 引き締まった肉体と丸太のように太い腕。 こんな間近でみるのは、初めてかもしれない。  「おめでとう。首席『ヒヅル・オオミカ』 君くらいの歳の頃は、私は君のように優秀ではなかった。 だが、戦場において私はあまりにも、生き汚れていて殺意が強かった。 君は殺意を敵に向ける大義名分もあり、そして才能をカバーするほどの努力もある。 ……私などよりよっぽど出世するだろう」 この人は僕の戦力、そして出世に興味があるのだ。 嫌味な含み言葉に、不快感を感じずにはいられない。 「叱咤激励のほど有難う御座います。 司令官ほどの方から、そのようなお言葉を頂けるとは。恐悦至極に存じます」 慇懃無礼が過ぎただろうか。 「ふむ、よぉく出来た若者だ。君のような若者こそ……」 オガワがそう言いかけた時。 空が震えるような振動が走ったとともに、照明がフッと消えた。 講堂内が一気にざわつく。 驚き慌てる者、その場に座り込み泣き出す者、外の様子をいの一番に確認しに行く者。 皆様々な反応を示し、一気に講堂は混乱に陥った。  「全員落ち着け!速やかに落ち着いて戦闘準備せよ! 訓練生諸君!貴様らはこの共和国の将来を担う貴重な財産だ! 最低限の武器を所持し……総員退避したまえ! 諸君らと将来また生きて相まみえることを切に願う! 繰り返す!」  管制からアナウンス指示が鳴り響く。ヒヅルは直感的に察した。 この基地は襲われている、そして壊滅する。 「なぜここが襲撃されているのだ! もしもし、こちらオガワ!巡回部隊は一体何をやっているのだ! ……なにぃ!?全機撃墜?複数の人型の機影だと?」 オガワは、内線で必死に状況把握を行って指揮を取ろうとしているが、明らかに表情には焦りの色が見える。 今、目の前に降ってきた問題に対処するのが目一杯なのだろうか。 「なぜだ。なぜブラダガムはこの基地を……まさか情報漏洩か!? そうであればこうしてはいられない!あの機体を奪われるわけにはいかん!」 そう言葉を発するオガワの目には怒りも混じって見える。 「ブラダガム軍、基地内に侵入。その数2!」 「速やかに交戦・排除せよ!」 「B3ドッグ、B3ドッグ!急げ!あれは失ったらまずい!」 「研究棟、中破!総員研究棟より避難せよ」 敵の侵攻があまりにも早い。 またなのか、またブラダガムは僕からすべてを奪っていくのか。 奪わせない、そして打ち倒す。 そのために僕は従軍したんじゃなかったのか……。 これでは僕は一体何のために。 アキヒロ……セイラ……。  眼の前では司令官が、冷静さに欠けている様子だ。 ……これが本来か、とため息が出る。 急襲により混乱する会場は先ほどまでの、祝福に満ちたムードはひとかけらも存在しない。 実戦経験など皆無に等しい訓練生らが、慌てふためく光景。 今日この日この瞬間、正式に軍の一員と認められた瞬間に実践に放り込まれた事実が残るのみだ。 その中でも兵士としての意識が既に芽生えていることで、不測の事態にも対応する事ができた一部の訓練生達もいる。 当然、ヒヅルもその中に含まれる。 基地全体への最低限の安全確保を行おうとするオガワの焦り方は、ヒヅルの眼には確かに真っ当なことに映った。 だが同時に、何故だろうか。 それだけでは無い大袈裟なまでのリアクションを感じずにはいられない。 そう思ううちに、ヒヅルはオガワと目が合う。 そうか。もしかして。 ヒヅルは周囲の騒音の中で確かに耳にした『B3ドッグ』『失うとまずい』という言葉。 彼が最も気がかりなのは、そこにある僕の知らない『何か』なのでは……。 先ほど実践を迎えてしまったとはいえ、僕も兵士であることに変わりはない。  だけれども、僕は確信がある。 いや。何かに呼ばれている。 「僕がB3ドッグに行かなくては、この基地は皆殺しになるッ!」
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