Chapter0 Prologue

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第3話 怒りの日 「君も即座に戦闘準備に……ッ!?」 オガワは漸く、主席が忽然と消え去っていたことに気づく。 刻まれた年季と経験が、脳へ心臓へ激しく警笛を鳴らす。 不意に目が合ったわずか数秒の出来事を思い出す。 「まさか!?」嫌な予感が胸を撫で、B3ドッグへと走り出した。  B3ドッグ。 地下深い鋼鉄の檻に来たヒヅルは、目を見開いた。 そこに横たわる人型の機械。 稚拙な表現をすると、ロボットに見える"それ"がそこにいた。 真紅と白を基調にした装甲色。 太ももと前腕はシンプルな装甲で形取られ、ている。 細く見える素体に、がっしりとした鎧のように装備された鋼のプロポーションだ。 肩は、鎧のような広がり方をした形をしている。 背部の大きく過剰なX字のブースターは、推進装置だろうか? ヒロイックな2つの緑眼を讃える、白い兜から生える長い耳のようなアンテナ。 突き出た胸の直下には、搭乗席がぽっかりと口を開けている。 これが……失われるとまずい宝? ヒヅルは呆然としたまま一歩ずつ近づく。 「何をしている!!」 背後から耳を刺す、聞き慣れた野太い司令官の声。 怒号にも似た逞しい声でハッと我にかえる。 「退避したのならまだしも、こんな、所でッ……はぁ、はぁ……早く、この場から」 ヒヅルは遮るように問う。 興味からか、驚きからかは本人にもわからなかった。 ただのだ。 「オガワ司令、これは一体?」 子供のような疑問、ショウケェス越しにトランペットを見る少年のような瞳に司令官は憤りを収める。 「……、これは、共和国軍が秘密裏に進めている『次世代人型機動兵器プロジェクト』の基幹となるものだ。 並びに『新システム制式試作一号機 KN-630101A』 我々は仮にコードネーム"サナギ"と呼んでいるがね」 言い終わったのち、オガワは自身の言動に困惑する。 "何故、話してしまったのか?" 最重要機密を見られてしまったから? 彼が主席だから? いいや、そんな理由じゃあない。  振動と爆発音が近づいてくる。 このドックが見つかるのも時間の問題だ。 「だが無理だ。今はまだ調整が不十分だ。 誰も新システムを十二分に活かせたことは無い。 況してや、戦闘すら経験してない貴様には……」 いや……違う。 「司令官」 ゆっくりとヒヅルが口を開く。 確固たる意志を持った、静かで強い口調だ。 友を失ったあの日のことを思い出す。 家族を失った怒りと悲しみを。 そうだ、僕が。 「やります。僕がやらなくっちゃあならないんです」 さっき全てを話してしまった理由。 己を最も納得させられる答えは、もう理解している。 "この子ならば……ッ!"という直感そのものだ。 だが、司令官のオガワの立場が決断を許さない。 誰も成し得なかったシステムとの適合が、出来るわけがない! そしていくらなんでも、子供に"乗せる"訳には_______。 緊急事態による緊張感、己の立場、彼を信じたい気持ち。 それらが混ざり合い、胸が早鐘を打つように苦しくなる。 『やめろ!命令違反だ!』と声を上げたいが、喉から声を出すことができない。 オガワでは、機体のコックピットへと歩んでいく若人の背を見ることが精一杯だった。 『知らない君を、僕は知っている』 ただそれだけ。 ヒヅルが機体へ乗り込んだ時に思ったのは、ただそれだけだった。 無機質な機械の塊の中なのに、柔らかくて温かい。 この世は『人と人』『人とモノ』の出会いには"引き合う力"があるのかもしれない。 「だから君に出会った。僕はここにいる」 ヒヅルは、ゆっくりと機体に語りかける。 「僕を……導いてくれッ!」 エンジンを起動する。 脊髄に沿うようにシートからケーブルが伸びて、接続がされていく。 頭上からヘルメットが被せられていく。 直後に脳髄と神経細胞を揺さぶる激しい刺激とともに、五感がまた安らかになっていく不思議な感覚に囚われた。 前方モニター下、スクリーンに青緑色の文字が映る。 『神経接続 完了』 『太極図システム 試作型起動』 『パイロット適合率 95%』 『KN-630101A 機動』 ゆっくりと、その鋼鉄の身体が起き上がる。 そして、立ち上がる。 「行くよ、父さん。母さん。セイラ。アキヒロ……」 「今日が、復讐を果たすための……怒りの日だ」 d1622908-1de0-4e86-8a43-5fa4456f1012
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