潮風をきって走れ

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 みらい学園トライアスロン、3種目目のトレイルラン。  仮屋の西の岬の浜から、ひたすら急斜面の森の中を登り、そこから直線距離で800メートルほどの距離にある、「天狗岳」という山の山頂までのコース。ここが普通のランと違うところは、コース取りを、ランナーそれぞれ自由に選べることだ。  あまりトレイルランを得意としない普通の参加者むけに、「一般コース」とよばれる、比較的しっかりとした山道を走るルートがひとつある。けど、そのコースは途中から、山の西側をぐるりと北側に迂回して、それからふたたび南にむけて山頂を目指す長距離ルートになっている。勾配はゆるやかで走りやすいけれど―― そのぶん距離がかなりある。たぶん、直線距離の倍以上。  だから毎年、1位や2位の獲得を目指す上位のランナーは、道のない急斜面を、なるだけまっすぐ山頂めがけて駆け上る「ショートカットコース」を選択することになる。  ただしここには、道がない。  笹がびっしりおいしげる暗い山の木々のあいだを、道なき道を、ひたすら登ることになる。石がごろごろした岩場も途中にある。転倒やケガをするリスクも高い。これは正直、とてもキツい。ただし、本気で上位争いをするつもりなら――   ショートカットコースを、選ばないという選択肢はない。断固としてない!  そして今回、わたし外津ナギサも。事前に何度も、実際にここを走って、コース確認をしっかりしてきた。何か月も前から、下調べを重ねて。  そしてわたしは発見していた。多くの上位ランナーが過去につかってきたショートカットコースの、さらにその、東側。さらにまっすぐ山頂を狙える、いちばん最短距離に近いルートを。  ただしそこは―― コースと呼ぶには岩場が多いし、一歩でも足を踏み外すと―― 転落して大ケガをしかねない、危険な谷筋をギリギリを進んでいく上級者向けの登山ルートだ。普通は誰も走らない。そもそも走る場所ではない。でも――  現在4位。ここから順位を上げて行くためには――  わたしはここを走ることを、少しも迷うことはない。  走ることは、生きること。勝つことは、わたしが生きる証明だから。  だからわたしは選ぶことを、ためらわない。  ショートカットコースの―― さらにさらに、東側の。最も危険で、だけどもっとも距離の短い―― わたしだけの超ショートカットを。わたしはひとりで、ひた走る!
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