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その先、土の斜面が、崩れて落ちて、すべって下まで行きついた先。
そこに、ひとりの―― ブルーのジャージ姿のひとりの生徒。
湿った落ち葉の斜面に横たわり―― 彼女はそこから―― 空を見ていた。
いや。空じゃない。空にはとても届かない―― 暗い森の天井がつくる、その暗いどこかを。
体半分、落ち葉に埋もれて―― そこに彼女が――
新田みのりが、うつろな視線で横たわる。
瞬時にわたしの頭の奥に、ひとつの風景が呼び覚まされた。
路上に散乱する破片。ガラスのかけら。アスファルトの路面を埋め尽くす赤い水。
そして路上に脱ぎ捨てられた―― あるいは脚から、無慈悲にむしりとられた―― わたしが大好きだったあの人の、二つの大きな白い靴。目の覚めるような鮮やかなホワイトに、深いブルーのストライプ――
救急車! 救急車だ! すぐに! すぐに! 誰か! はやく! たのむから、はやくッ!
その日そのときの風景は、
わたしが自分で実際に見たわけじゃない。そこにわたしはいなかった。だからそれはわたしが自分で見たはずの絵ではなく――
だけどいま、一瞬にして脳内再生された、いつかのその日のそのシーン。
靴。靴。靴…
誰か。はやく。はやく、お願い。あの人を! 援けて、神様! お願いしますッッ!
足の筋肉が一瞬にして氷りつき。わたしはその場を動けない。息が一瞬とまったみたいで。うまく呼吸ができなくなった。なにかを、誰かに叫ばなきゃ。そう思ったけど。声がぜんぜんでなかった。わたしはそこに金縛りにあったみたいに―― 暗い斜面の土の上に、氷りついたように立ち尽くし――
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