潮風をきって走れ

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「あれ? ない… ない… なぜ? どうして??」  ない。わたしのスイムスーツが。ない。ない。  前日確認で、ぜったいたしかに、ここの港の路上のコンクリートの上、奥側の、左から4番目のところに。わたしがしっかり準備していたブルーと蛍光イエローのスーツが、ぜったい、置かれていたはずで。自分で昨日、その場所を確認して―― なのに――  激しい足音と息遣いが、どどどっとなだれこんできて。  2位集団が。もうそこに到着した。4、5… 6人。  なのに―― わたしはまだ、自分のスイムスーツが見つからないでいる。どうして?? なぜ?? 「なにしてんの、それ! あんた、スーツは?」  わたしの後ろから。  スイムスーツを半分ほど着込んで、彼女が。  新田みのりが。はげしく声をとばした。 「ない… ないの。スイムスーツ。ぜったいここに、あるはずなのに――」 「なにそれ、バカだな! はやく先生に言って、かわりを借りなよ。ほら! はやく!」  新田みのりは、わたしにむかって叫びながら。スーツのジッパーを上に。あごの下まできっちりとめて。そのあとはもう振り向かずに。そこから海にむかってまっすぐ飛びこむ。波のしぶきが巻き上がる。
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