潮風をきって走れ

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 ハッ、ハッ、ハッ…  深く、規則正しく吐き出される息が、わたしという存在の意味そのものだ。  外津ナギサ(ほかわづ・なぎさ)はいま、生きている。すなわちわたしは走っている。早朝の小雨にぬれたアスファルトを蹴って。蹴って。蹴って。  みらい学園後期課程・中等部の陸上部に居場所をさだめたわたしの生活は、この2年、走ること。速くなること。勝ち切ること。負けないこと。ほかの誰よりも速くなること。それだけにささげられた2年だ。言い切ってしまう。だってそれはほんとうだから。わたしは本当に、走るために生きている。逆かもしれない。生きるために走っているんだ、わたしは。走ることは、生きること。速く走るんだ。だれよりも早く、そして遠くまで。
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