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雪だるまと桜
──外に、一本の枝が見えた。
雪乃は布団から体を起こす。一つ、こんと咳が出た。
空と地面の境界が分からないくらい真っ白な世界。そしてその中に鮮やかに見える南天の赤。立花はそんな絵を雪見障子を通して見ているようだった。
そんな絵の中に現れた媚茶色の枝。細く、先が二つに分かれているそれは、落ちかけのようにゆらりゆらりと揺れていた。
雪乃はそれを見に行こうとした。しかし布団を出ようとした所で、運悪く母親に見つかる。
「ゆきちゃん。大人しく寝ていなきゃだめでしょ。また苦しくなっちゃうよ?」
「でもあそこに枝が……」
雪乃が白魚のような指で雪見障子の外を指し示す。しかしそこには一面の銀世界と鮮やかな南天。どこにもあの木の枝はなかった。
母親はそれを訝しんで窓の外を覗いた。
「枝なんてどこにもないわよ? 見間違いじゃないかしら」
(確かにいたと思うんだけどなあ)
雪乃はその言葉を飲み込んだ。母親は大人しく布団の中に入った子の頭を撫でる。
「春になればきっと治るからそれまで大人しくしてようね」
母親が出ていき、また部屋は静まりかえった。
一人で家にいるときの独特な音。しかしそれは外の餅雪の降り積もる音にかき消された。
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