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ふと雪乃は思う。
「じゃあ雪だるまさんたちは桜の花を見たことがないの?」
「そうね。桜の咲く頃には雪は溶けちゃってるからね」
その日から雪乃は雪だるまたちのいない隙を見計らって折り紙で桜の花を折るようになった。そしてそれを母親に障子の枠に貼り付けてもらった。何枚も何枚も重なったそれはまるで桜の木のようだった。
もうすぐ春という頃。雪だるまたちはだんだんと小さくなった。それと反比例するように桜の花は増え、ついに満開の桜の木のようになった。
「これさくらって言うのよ。春に咲く花であなた達は見たことがないかもしれないけど私の家の庭にも咲くの」
雪だるまたちは踊り回った。片方の目は落ちて、小さくなった体にぶかぶかのバケツを被りながら。雪うさぎたちもいつも以上に跳ね回っていた。
そうして、冬は終わりを告げた。
* * *
庭に本物の桜が咲き誇り、春の暖かさに眠くなる頃、雪乃は外へ出れるようになった。自分が寝ていた場所の外──雪だるま達のいた辺りへいってみると、そこには何もなかった。母親の言った通り、雪は春の暖かさに耐えきれなかった。
いつもと変わらない冬から春への変化。それでも雪乃の中には毎年のようなぽっかりと空いた寂しさは無かった。あの、雪だるまたちと遊んだ──思い出が出来たから。
─了─
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