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「くうちゃん、様子おかしいよ」
気遣ってくれるのはじゅんじゅんで、今は弁当を食べている。
本日晴天、ピクニックみたいだ。
「そいつ朝からなんだよ、考え事みたいな顔してさ」
山下はミクを指差す。朝、と聞き返すのは夢ちゃん。
「何かあった、まさか苛めか」
大袈裟なのはかっちゃんだ。
父はいつでもこんな風に、距離感を無視して踏み込んでくる。
だが母はこの真っすぐさを、好きになったと言っていたっけ。
「苛めって、なんだっけ」
勉強もネットな未来では、各科目の担当教職員が数名、オンライン上に授業を配信しているだけだ。
単位に関わる授業については生徒参加型だが、受ける場所は自宅外でも構わない。
友達は地元の行事や部活動など、強制力の低い場所で作る。
気の合わない人とは基本的に、関わらないで済む仕組みだ。
未来では、SNSでの仲間外れが年齢関わらず重く罰される。
だから大抵の揉め事は、男女間の縺れだった。
『あの男は、運命の人ではなかった』
『やっぱり彼氏より、女友達』
などと一報し、粗品と共に言い訳を添えた。
人との繋がりって何だろう。
「どうして人は、群れをなすんだろう」
ミクは呟いた、誰かに聞かれるつもりなどなかった。
ただ思ったことが声に出ていたのだ。
「変な奴、そんなの縄文時代からあるじゃん。
人は共同体を作ってさ。
男は狩り、女は家庭を守っていたんだよ」
「その考えが古いから、かっちゃんには彼女ができないんだよ。
できてもすぐに別れちゃう、女性に対する願望が強すぎるから」
「じゅんじゅんは剣道でも、それこそ対戦相手が男子でも。
勝てちゃう時があるもんね、強いし頼れるし」
「あのね夢ちゃん、これからは女も自立する時代なの。
家庭を守るだけなんて、そんなの無意味。
女もバリバリ働いて、性別に関係なく社会に貢献するの。
育休が昇級の妨げになるなら、私は子供なんていらない」
目を見開き、夢ちゃんを今にも食べてしまいそうな勢いで話すじゅんじゅん。
夢ちゃんの両手をギュッと握って、飛沫も飛んでいるかもしれない。
「いつまでも女は若さ、お茶汲み、コピー取りで資料の準備をする補佐役。
これじゃ本来の力を発揮できない、男より有能かもしれないのに」
営業事務をしてくれる女性のおかげでプレゼンが成功しても、自分の手柄と勘違いをする男性社員。
そんな事務員の代わりは幾らでもいると、退職へ追い込む男性上司。
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