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「ミクが熱川に来ることについて、別に良くね?
行きたくないなら断ればいい、俺に聞くな」
あるがままな他人との会話は、例えお叱りを受けても新鮮だ。
ミクは目を見開く。
「私が考え過ぎだったね」
そそくさと自室へ戻ろうとする。
「みんな来てほしがっていたよ、楽しみにしている。
何か参加できない理由でもあるのか」
それが山下には見当もつかない。
「別にないよ」
今度こそ部屋に戻ろうとすると。
「毎晩、遅くまで何をやっているんだ」
遅くって、と聞き返す。恐らく一行日記のことだろう。
「おやすみって言ってから電気が消えるまで、少し時間があるっていうか。
不規則な、何か叩くみたいな音が聞こえるから」
壁が薄い! 思わずミクは仰け反った。
「煩かったのなら、ごめんね」
こう言い扉を閉めた、危なかった。バレたら重罪、強制送還だ。
すぐ扉が開き、山下が廊下に顔を出した。
「慣れない土地で大変だろうけど、何かあったら何でも言え。
悩み事なら聞くし、困り事だったとしても、解決できるかもしれない」
書く━━この場合、入力することでも発散にはなるだろう。
しかしもし誰かに打ち明けられたのならば、それはどんなに心強いことか。
これまでのミクは悩んだら、直でAIに質問していた。
その回答はとても単純で、王道━━つまり質問者が誰であれ同じ返しをした。
だがそれはミクだけじゃない、多くの若者の相談相手が未来ではAIだ。
誰かに心の内を話す、それも赤裸々に明かすだなんて!
親にすら、相談していたのは幼少期までだろう。
ドキドキするに決まっている、こんな経験は初めてだった。
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