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「日本には長いこと、それこそ明治維新以降。
士道不覚悟で切腹、なんて文化はない。
今も2023年も、武士や忍びなんていないの。
天然記念物にすら指定されていないわ。
着物だって特別な時だけだし、散切り頭でもない。
浪人だって志望校に合格できず、翌年また出直す人のことをそう呼ぶの」
「ミク、2023年の日本は今の米国と、さして変わらんぞ。
寧ろ治安はいい。
ちょっと規則が緩かったり、ちょっと不便に感じるくらいだ。
文化云々というよりも、俺の味わった青春時代をミクにもお裾分けしたい。
この時代での青春もいいが、折角の機会。
2023年ではもっともっと素晴らしい体験ができる、そう強く信じるんだ」
父は熱く語った。
「ここ、お父さんの署名するところ」
保護者の同意欄を指差すと、ミクは添付資料を読み上げた。
未成年向けに解り易く書かれている。
「旅行中に気をつけること」
一、未来が変わる行いをしない
例)公募や大会、協議会などで優勝すること
一、未来を知っていることを利用し金儲けをしない
例)予知能力、ギャンブル、宝くじなど
一、未来人であることがバレてはならない
破った者は強制送還、重罪となる。
時間旅行は可能となったが、まだまだ全てが解明されているわけでもない。
謎その一)親殺しのパラドックス
もし旅先でミクが、在りし日の男前だった父を殺害したらどうなるか?
父がいなければミクは生まれない。
すると父を殺すミクも存在しなくなり、父は殺されないことになる。
謎その二)存在の環
ある時父は、見知らぬ老人からタイムマシンの設計図を渡される。
在りし日の男前だった父は、それを基にタイムマシンを発明。
やがて年老いた父はタイムマシンで過去に向かい、
かつての男前だった自分に設計図を渡す。
謎その三)自分が二人
この状態で他人に干渉すれば、彼らの記憶に混乱が生じる。
ましてや自分自身と遭遇すれば、文字通りドッペルゲンガーだ。
もしも未来人が罪を犯した場合、現在軸の当人を現行の法律で処罰するのか?
以上のように明確な解答の出ていない事例を発生させぬよう、時空協会が常に監視している。
旅先も、旅行者の生まれる前何年と定められている。
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