14人が本棚に入れています
本棚に追加
2023年10月1日
降り立ちました、角打ちもある酒屋さんを経営するお宅。
「太陽、お店のお客さんでな。凄く良くしてくれている人がいるんだ」
「んだよ親父、急に集まれって」
三階建て一軒家の、二階居間に集められた、山下太陽は機嫌が悪い。
束感短髪がよく似合っていて、細見で長身だが猫背だ。
「そのお客さん、海外赴任が決まったらしい。
お子さんも、あと一年ちょいで卒業だ。
進学先の問題はないって話しだし、半年後には頼れる親戚がいるそうでな」
はぁ? と気の抜けた声を出す山下。
「我が家で預かることにした。お金の心配はない、かなりの額をいただいた」
との言葉には眉を寄せる。
過去での生活を安定させるため、2023年の時空協会が、こちらの滞在先を手配してくれている。
「だーかーら、知人のお子さんを半年間、預かるんだよ。
もうお金も貰っちゃったの」
手をつけてしまったと言う。
ほぼそれぞれの時代に、時空協会は存在する。
本部はミクのいた時代にあり、旅先の協会は支部という形になっている。
ここ2023年にも協会はあり、2049年の職員が勤務している。
現地雇用は行っていない。
情報漏洩やコンプラの面で、未来を改変してしまうことを防ぐためだ。
この時代ではまだ時空間移動の原理は発見されていないが、近い場所に設立されていて。
一部旅行の禁止されている時代を除き、ミクたち旅行者の手助けをしてくれている。
高校の編入手続きもしてくれた。
古すぎる昔にも行けない、考古学の研究を邪魔してしまうからだ。
だが原始の生活を望む生徒も少なく、今のところ苦情はない。
「俺これでも来年には受験生なんだよね。
なのに親父はどうしてすぐ、そう勝手なことをするんだよ」
ひょっとすると、しなくても迷惑がられている。
しかしこのお宅を選出したのはミクではない、協会なのだ。
事前調査も済ませている。
「だったら同学年だ、いっそ勉強を教えてもらえ」
ミクは階段の踊り場で立ち止まり、動けずにいた。
招かれざる客だと気づく、どんな顔をして飛び込めばよいのか。
「そうだよお兄ちゃん、ヒサは賛成だよ。
お母さんいなくなっちゃってから、なんか寂しかったんだよね。
物理的にでも、人が増えれば楽しいじゃん」
女の子の声に、もっと言ってやってと心の中で応援する。
小六の娘さんもいるって、そういえば協会の人が言っていた。
お母さまはがんで数年前に他界されたとか、知らぬフリだが。
最初のコメントを投稿しよう!