2023年10月1日

2/2
前へ
/69ページ
次へ
「あのなぁヒサ。人が増えても、母さんは戻っちゃこないんだ」 「そんなの解っているもん、お兄ちゃんの馬ぁ鹿」  兄弟喧嘩、勃発だ。 「あーもう、我が家では父さんが法律なんだ。父さんの言うことは絶対だ!」  米国からわざわざ来たのは、ミクの時代の技術では、タイムマシンは同じ日・同じ場所にしか降り立てないからだ。  そこで航空券の買えないミクは、協会の自家用ジェットで日本まで飛んだ。  法の穴やら航空識別圏やらを掻い潜ってだ。  とはいえ未来の技術をもってすれば、あっという間に渋谷という街の建物(ビル)屋上に着陸していた。  はるばる遠方(未来)から来たというのに。 「もう入ってきちゃって!」  痺れを切らしたお父さまの大声が、階段中ほどで立ち竦むミクにまで届く。 「もう来てんのか」  今さら反対したところで後の祭りだと悟る。 「やったね、期間限定家族ぅ」  驚く兄と、喜ぶ妹。 「失礼します」  恐るおそる、ミクは扉を開け入室した。 「女? 親父てめえ、金に目が眩むのも大概にしろ。  年頃の男女ひとつ屋根の下に住まわせて、不安はねえのかよ」  山下は、お父さまの襟元を掴む。 「お前さえ理性的に動けば、何の問題もないんだよ」  答えるお父さまは、山下の腹辺りをガツっと蹴り飛ばした。 「お姉ちゃん、お名前は。なんてゆうの」  興味深そうに聞くヒサちゃんは、吹っ飛ばされた兄など気にならない様子。 「長谷川ミクです、よろしくね」  まだ1フィートくらいだけ背の低いヒサちゃんに目線を合わせ、ミクは軽く頭を下げた。  荷物はボストンバッグひとつ。  こちらで着られそうなお下がり数枚と、旧式タブレットと携帯電話他。  手持ちはこの時代の協会から手渡された現金がドル建てなので、いずれ換金しなければ。 「山下陽咲(ひさき)だよ、お姉ちゃんって呼んでいい」  元気そうな子だ。 「いいよ、ヒサちゃん何年生」 「小六だよ。パパ、お姉ちゃんの部屋はどこにするの」  手を繋いでくれたので、今度はそっと山下を見る。 「長男の、太陽です」  ぶっきらぼうな挨拶だった。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加