14人が本棚に入れています
本棚に追加
「あのなぁヒサ。人が増えても、母さんは戻っちゃこないんだ」
「そんなの解っているもん、お兄ちゃんの馬ぁ鹿」
兄弟喧嘩、勃発だ。
「あーもう、我が家では父さんが法律なんだ。父さんの言うことは絶対だ!」
米国からわざわざ来たのは、ミクの時代の技術では、タイムマシンは同じ日・同じ場所にしか降り立てないからだ。
そこで航空券の買えないミクは、協会の自家用ジェットで日本まで飛んだ。
法の穴やら航空識別圏やらを掻い潜ってだ。
とはいえ未来の技術をもってすれば、あっという間に渋谷という街の建物屋上に着陸していた。
はるばる遠方(未来)から来たというのに。
「もう入ってきちゃって!」
痺れを切らしたお父さまの大声が、階段中ほどで立ち竦むミクにまで届く。
「もう来てんのか」
今さら反対したところで後の祭りだと悟る。
「やったね、期間限定家族ぅ」
驚く兄と、喜ぶ妹。
「失礼します」
恐るおそる、ミクは扉を開け入室した。
「女? 親父てめえ、金に目が眩むのも大概にしろ。
年頃の男女ひとつ屋根の下に住まわせて、不安はねえのかよ」
山下は、お父さまの襟元を掴む。
「お前さえ理性的に動けば、何の問題もないんだよ」
答えるお父さまは、山下の腹辺りをガツっと蹴り飛ばした。
「お姉ちゃん、お名前は。なんてゆうの」
興味深そうに聞くヒサちゃんは、吹っ飛ばされた兄など気にならない様子。
「長谷川ミクです、よろしくね」
まだ1フィートくらいだけ背の低いヒサちゃんに目線を合わせ、ミクは軽く頭を下げた。
荷物はボストンバッグひとつ。
こちらで着られそうなお下がり数枚と、旧式タブレットと携帯電話他。
手持ちはこの時代の協会から手渡された現金がドル建てなので、いずれ換金しなければ。
「山下陽咲だよ、お姉ちゃんって呼んでいい」
元気そうな子だ。
「いいよ、ヒサちゃん何年生」
「小六だよ。パパ、お姉ちゃんの部屋はどこにするの」
手を繋いでくれたので、今度はそっと山下を見る。
「長男の、太陽です」
ぶっきらぼうな挨拶だった。
最初のコメントを投稿しよう!