2023年10月2日

3/4
前へ
/69ページ
次へ
 (チャイム)が鳴り、昼になる。 「長谷川さんて、お弁当じゃないんだ」  中村夢禾に聞かれ、え、と固まるミク。  お昼って勝手に外食とか、ピザを注文していいものだと思っていたので聞けない。  ここは過去の世界で外国、つまり異世界転生みたいなものだから、ミクの常識は通用しないのだ。 「持ってきていないって、さっき言っていたな」  言ってなどいないが、山下が助け船をくれたので出航する。 「一緒に食べようよ」  腕を引かれ、食堂へ向かった。  校舎の一階まで降りたら昇降口とは逆方向の、渡り廊下を突き当たりまで。  敷地内ギリギリに増築された、箱のような形の建物だ。  中は広く、一歩足を踏み入れると美味しそうな匂いが鼻を擽った。 「カレーライスとかお魚昼食(ランチ)、お肉にハンバーグもあるよ」  説明してくれたのは小林純。  パンと飲み物(ドリンク)(冷水、お茶)は飲み放題という、育ち盛りには嬉しい制度(システム)だ。  夏場の熱中症対策に始まったらしい、流石は私立。  所々透明の仕切り板(パーテーション)があるも、隅に寄せられている。  空いたテーブル席に座った。 「長谷川さん、私は学級(クラス)委員の京野都。  いつでも頼って頂戴、学内で不自由させないわ」  赤縁眼鏡がキラッと輝く、インテリ女子が隣りに座った。  ミクの時代にも眼鏡はあるが、視力補正の役目を持つこの時代とは根本的に使用目的が違い、お洒落小物のひとつに過ぎない。  しかしもし京野から眼鏡を奪えば(そんなことしないが)、忽ち彼女の視界はボヤけてしまう。  死守すべき大事な顔の一部なのに、京野ときたら。  眼鏡のレンズ部分に息を吹き掛けたり、ポケットから取り出したハンカチで拭いたり。  自覚が足りないように思った。  最初に声を掛けてくれた癒し系が夢ちゃんで、二番目の短髪(ショートカット)でサバサバ系がじゅんじゅん、最後に委員長はそのまま都。  そしてミクは。 「みいちゃんにする?」 「くうちゃんは、どうよ」  呼び方で揉めている。  日本人とは妙なあだ名をつけることで、親密になれる民族のようだ。 「初めまして、俺もクラスメイト。山ちゃんのマブ筧忠信だ。  くうちゃん可愛いね、俺のことはかっちゃんって呼んで」  若かりし日の父登場、予想はしていたが男前ではない。  それどころか髪も肌も人工的な色をしていて、チャラ男? ギャル男?  頑張っているのがひしひしと伝わって、思わずしかめっ面のミク。 「長谷川です」  複雑な心境で、ご挨拶をした。  父の持つカッコいい、イケてるの基準はズレているように感じた。 「一瞬にして、恋に落ちたかも」
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加