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鐘が鳴り、昼になる。
「長谷川さんて、お弁当じゃないんだ」
中村夢禾に聞かれ、え、と固まるミク。
お昼って勝手に外食とか、ピザを注文していいものだと思っていたので聞けない。
ここは過去の世界で外国、つまり異世界転生みたいなものだから、ミクの常識は通用しないのだ。
「持ってきていないって、さっき言っていたな」
言ってなどいないが、山下が助け船をくれたので出航する。
「一緒に食べようよ」
腕を引かれ、食堂へ向かった。
校舎の一階まで降りたら昇降口とは逆方向の、渡り廊下を突き当たりまで。
敷地内ギリギリに増築された、箱のような形の建物だ。
中は広く、一歩足を踏み入れると美味しそうな匂いが鼻を擽った。
「カレーライスとかお魚昼食、お肉にハンバーグもあるよ」
説明してくれたのは小林純。
パンと飲み物(冷水、お茶)は飲み放題という、育ち盛りには嬉しい制度だ。
夏場の熱中症対策に始まったらしい、流石は私立。
所々透明の仕切り板があるも、隅に寄せられている。
空いたテーブル席に座った。
「長谷川さん、私は学級委員の京野都。
いつでも頼って頂戴、学内で不自由させないわ」
赤縁眼鏡がキラッと輝く、インテリ女子が隣りに座った。
ミクの時代にも眼鏡はあるが、視力補正の役目を持つこの時代とは根本的に使用目的が違い、お洒落小物のひとつに過ぎない。
しかしもし京野から眼鏡を奪えば(そんなことしないが)、忽ち彼女の視界はボヤけてしまう。
死守すべき大事な顔の一部なのに、京野ときたら。
眼鏡のレンズ部分に息を吹き掛けたり、ポケットから取り出したハンカチで拭いたり。
自覚が足りないように思った。
最初に声を掛けてくれた癒し系が夢ちゃんで、二番目の短髪でサバサバ系がじゅんじゅん、最後に委員長はそのまま都。
そしてミクは。
「みいちゃんにする?」
「くうちゃんは、どうよ」
呼び方で揉めている。
日本人とは妙なあだ名をつけることで、親密になれる民族のようだ。
「初めまして、俺もクラスメイト。山ちゃんのマブ筧忠信だ。
くうちゃん可愛いね、俺のことはかっちゃんって呼んで」
若かりし日の父登場、予想はしていたが男前ではない。
それどころか髪も肌も人工的な色をしていて、チャラ男? ギャル男?
頑張っているのがひしひしと伝わって、思わずしかめっ面のミク。
「長谷川です」
複雑な心境で、ご挨拶をした。
父の持つカッコいい、イケてるの基準はズレているように感じた。
「一瞬にして、恋に落ちたかも」
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