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浮かんだ苦悶が少女を拒絶していても、力が入っている五指が扉に触れることはなく、だらりと下がった。
くそっ。吐き捨てた苛立ちは、雄貴の満足げな笑みが掻き消していく。その笑みが、門扉の前で佇む少女に向けられる。
「兄さんの許可が下りたよ。話は中で──ん?」
「……」
雄貴を見つめる少女の顔には、怪訝が潜んでいた。胡乱げな左目が、雄貴の体を這う。戸惑い気味に、それでも柔和に、雄貴は首を傾げた。
「どうしたの?」
「さっきの推理」
視線が定まる。雄貴を直視する。
「まるで見てたかのようだった。あなたも、元警察関係者?」
「えっ」
再度、兄を咄嗟に見た。再度、晃暉は目を逸らした。初対面の相手に明かす情報に、驚きよりも呆れが、雄貴の笑みに加わった。
「兄さんの口は滑りやすいんだね」
「たまたまだ」
忌々しげな弁明と後悔にすら微笑を返して、雄貴は少女に向き直った。
「俺は現役だよ。警察官じゃなくて、検察官だけど」
「へえー」
少女の左目が雄貴を這う。しかし、そこに胡乱さは込められておらず、爛々とした好奇心に満ちていた。溢れる無邪気さが、雄貴の表情の緩ませる。
「色々と問い質したいって顔だね。始めるなら、中で」
少女の進む道を示すように、雄貴は恭しく、玄関を手の平で示した。少女が微かに、けれど満足げに笑む。そして、開放と閉鎖を繰り返していた門扉の中へと、一歩足を踏み入れた。
「……雄貴」
少女が敷居を跨ぐ瞬間を待っていたかのように、晃暉が憎々しげに呟く。
「そいつを入れたのはお前だからな。お前が責任を持てよ」
「ここまで連れてきた兄さんにも責任はあると思うんだけど」
「勝手に付いてきて、追い払おうとしてた奴を招いたのはお前だ」
「追い払おうとしてた手段も、場所も良くない。何かしらの結論を出すにしても、今の時間なら、家の中が最適だと俺は思う」
「だから、居座ったらお前の責任だ」
門扉を抜けた少女を忌まわしく一瞥し、晃暉は体の向きを変えた。足早に、玄関へと駆けていく。
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