4人が本棚に入れています
本棚に追加
「帰りたいんだったら、教えていって」
「言うつもりはない」
「私はそれを受け入れるつもりはない」
「ああ言えばこう言う、だな」
嘆きを吐きながら、晃暉は後頭部を掻いた。
「そういうところが、疲れるんだ」
「人を厄介者みたいに言わないで」
「みたいじゃなく、実際そうだ」
「初対面なのに足蹴にするなんて、おじさんって捻じ曲がってるね」
「君に言われたくない」
繰り広げられる言葉の応酬に、晃暉は辟易とした。
嫌気が差している。露骨に態度に表れている。それでも、少女の気迫は減少する気配がない。勢いが増していくばかりだ。
「だったら」
渋々といった体で、少女は口を動かした。
「おじさんが一方的に喋ってくれればいいよ。私は口を挟まない」
「何で君が妥協したみたいな──いや、してあげたみたいな言い方なんだ」
「現にそうだから」
毅然と、言い放つ。
「私がちょっと折れなきゃ、おじさんはいつまで経っても教えてくれないでしょ」
「ちょっとじゃなくて、全部折れ」
「それはない」
断言。心境に変化は決して訪れないと、明白に物語っている。
深い溜め息を吐き出す晃暉を前にして、決して揺らがない。
「言ったでしょ。おじさんは稀って」
サングラス越しの瞳を、瞬きすら忘れたかのような、決然とした左目が真っ直ぐ捉える。
「そんな人を逃がすほど、私の意志は脆くないから。それは、おじさんも分かってるでしょ?」
「君が強情な性格だということは、嫌というほど理解しているよ」
「じゃあ──」
「だが」
少女の言葉を遮るように、一際強く言い放つ。
「俺にも強情な一面があると、君なら理解してるんじゃないのか?」
「……」
沈黙。しかし、肯定が多分に含まれていた。
最初のコメントを投稿しよう!