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ふふっ。少女が小さな笑いをこぼす。
が、次の瞬間には、感情を無くしていた。歩龍川へと目を転じる少女は、穏やかな流れとは対照的に、激流のごとく殺意を放っていた。
「私から奪ったそいつを、私は殺さないと気が済まない。それもただ殺すだけじゃなくて、そいつが最も苦しむ、地獄よりも地獄を感じさせる殺し方で」
「復讐に取り憑かれてるな。身を滅ぼすぞ」
「その覚悟はあるよ。自殺だってその一環だから」
「自殺……」
「そいつが苦しむなら、どんな殺し方だって良いの。そいつの目の前で、私が壮絶な自殺を行えば、精神的苦痛を与えられて、一生立ち直れないかもしれない。それって、殺したも同然でしょ?」
「……」
「おじさん?」
歩龍川の穏やかな流れも、時折通る自動車の排気音も、少女の声も。音を無くした世界のように、晃暉の意識から乖離されていく。
心地好さを運んでいた微かな夜風も、纏わり付くように、晃暉の心を蝕んでいく。
痛み。苦痛が、晃暉の顔を歪ませる。
「はぁ……。はぁ……」
吐く息は荒く、肩が大きく上下する。苦痛を抑えるように、晃暉は頭を抱えた。それでも、襲ってくる痛みは消失しない。
「おじさん?」
「はぁ……」
心配と怪訝さを含ませ、問いかけてくる少女から、晃暉は目を逸らした。体を動かした。
真摯で純粋な想い。溢れる気迫。全てを拒絶するように、少女に背中を向けた。荒い呼吸を繰り返しながら、苦痛を堪え、覚束ない足取りで歩み出す。
「ねえ」
呼び掛けに応じない。耳にすら入っていないかのように、晃暉は足を止めない。ただ、歩く。帰巣本能のように一歩、また一歩。
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