橋での邂逅─1─

22/24
前へ
/77ページ
次へ
「ねえ。ねえってば」 何度呼び掛けられても、晃暉と少女の距離は一定を保たない。徐々に、確実に、離れていく。 「……もう」 不満を露に、少女は小走りで駆け寄った。覚束ない足取りが、少女との距離を瞬く間に埋める。 「ねえってば」 怒気を含んだ呼び掛けとともに、少女はスウェットの裾を引っ張った。脱力していた晃暉の体は、僅かに後ろに傾き、歩みを止められる。 前へと進ませないように、裾を握る少女の手に力が入る。 「逃がさないって言ったよね」 「……離して、くれ」 不規則な呼吸を繰り返す口から発された言葉は、切実を明瞭に訴えていた。それでも、少女の手は動かない。怒りは消えない。 俯きがちな晃暉と顔を合わせるように、上目遣いで顔を近付ける。 「おじさんが帰れる時は、私に殺人の詳細を語った時だから」 「言う気はないと、何度、言わせる」 「それを受け入れないって何度言わせるの。おじさん今、頭の中にその時の状況が甦ってるんでしょ?」 「……」 「顔面蒼白。足元フラフラ。苦しそうな呼吸。私を拒絶。これだけ揃ってたら、おじさんに何が起こったのか、簡単に予想できるから」 「その上で聞き出そうとする君は、まるで悪魔だな」 「殺したい奴を殺せるのなら、悪魔にだってなるよ」 冷酷に。復讐を全うするための人生に、逡巡は微塵も潜んでいない。殺意だけが溢れている。 「──って言うか」 唐突に。一転して。鈴を転がすような、軽やかな口調で、少女は言った。 「そもそも、天使は人を殺さないでしょ。人を殺そうなんて考えもしないでしょ」 「君には、天使の欠片も存在してないようだ」 「自覚してる。いらないから自分で捨てた。私は悪魔で構わない」 低い声が、晃暉の耳を刺激する。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加