橋での邂逅─1─

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「……」 殺人を犯すと明言している者を、看過するべきではない。元警察官として──人として為すべきこと。晃暉は理解している。それでも、頭の中で囁く天使と悪魔の声が、主張を崩さない。お前に防ぐ資格はないと、悪魔が声高に言い張っている。 拮抗している囁きにすら辟易として、晃暉は深い溜め息を吐き出した。 「今の俺に生きてる価値などないが、君に殺されるほど落ちぶれてもいない」 「骨の髄までボロボロに見えるけど。話して、楽になりなよ」 口調も表情も寄り添っているようで、実際は晃暉を、絶望の淵へと追い詰めている。貼り付けられた微笑も、死神の手招きと大差ない。 誘われはしない。晃暉は少女を見つめ、薄く笑んだ。 「楽になれるものなら、なりたいさ」 「だったら──」 「自分で死ぬ勇気も、誰かに殺される勇気もない、臆病者なんだよ、俺は」 「……あくまで、話す気はないって?」 「そういうことだ」 肯定が、少女の口を尖らせる。不満から逃れるように、暗闇に染まる帰路に目を向けた。 「君の信念に口出しできるほど立派な人間ではないが、君のそれは危険思想であるのは確かだ。気が向かないが、気が向いた時に、聞く耳を持たない警察官に伝えておくよ」 「それは困る」 ぎゅっと。晃暉の裾を握る手が、微かな困惑を表す。 「あいつを殺すまで、誰にも邪魔されたくない」 「人殺しは犯罪なんだ」 「おじさんもでしょ」 「……」 「邪魔されたくないから、早く教えて」 「……あくまで、それか」 貫き通す意地に感嘆を覚えながらも、凌駕するほどの呆れが、晃暉の口許を歪ませる。聞く耳を持たない。少女の性格を改めて理解した晃暉は、終わりの見えない水掛け論に見切りをつけた。 「ちょ、っと……」 帰路につく足に、少女が戸惑う。それでも、左裾を離そうとはしなかった。 脱力していても、男性と女性。力の差は歴然。左裾を引っ張られても、晃暉の両足は前へと進む。 「ねえ」 「……」 「ねえってば」 デート中に喧嘩した彼氏と彼女のような。あるいは、駄々をこねる子供と素知らぬ振りをする親のような。 左裾に付く少女には応じず、晃暉は無心で、足を動かし続けた。
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