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少女の存在を顧みない。安息に突き動かされ、足早だった。少女自身、手で守るような動作を取る暇もなかっただろう。 鋭い目線を向ける少女は、怒りを突き刺しているようでいて、痛みを堪えているようでもあった。 「……」 見返す晃暉の口からは、謝罪の言葉は発されない。代わりに口をついて出たのは、小さな溜め息だった。 反応を示した。付け上がらせる。勢いを与えてしまう。しかし、無かったことにはできない。 少女は尚も、離れようとはしない。離してなるものか、と気迫すら満ちている。 小さくとも、押し留めていた溜め息の流出は、晃暉を吹っ切らせた。少女の手を振り払うように、左半身を捻る。 「いい加減、離せ。君はどこまでついてくる気だ」 「教えてくれるまで、どこまでも」 頑なに、離れない。左裾と右手を縫い付けたかのように、しっかりと握っている。 服が伸びる。皺になる。左裾の現状に目を落とし、晃暉は眉をひそめた。 「俺の服を破くつもりか」 「逃がさないために、どこか掴むしかないでしょ」 「気に入ってるんだ」 「無地のグレーなんて、どこにでも売ってる」 「愛着が違う」 「じゃあ掴むところを変えようか?手がいい?振り払って逃げられないように、指と指を絡める、いわゆる恋人繋ぎになるけど」 「そんな繋ぎ方はごめんだ。考えただけで虫酸が走る」 「ひどい言い方だけど、私だって嫌だよ。手が腐る。だから服しかないでしょ、掴むところは」 「そもそも掴むな」 「素直に教えてくれるなら、すぐにでも離すよ」 「言う気はない」 「じゃあ私も、離す気はない」 言い放つ二人は、互いに相手の顔を見据えた。睨みを利かせるように、一切譲歩しないと伝えるように、視線が衝突し合う。虎と龍が睨み合っているがごとく、二人の視線は火花散る。
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