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出方を窺うかのように、互いに動かない。逸らさない。 途方もない、しかし実際は数秒の均衡を崩したのは、晃暉だった。 左裾を残し、左半身を強引に、門扉の内側へと押し込んだ。そして、門扉に手を置いた。 人が一人、通れるほどの隙間。晃暉の手によって作られた隙間が、ゆっくりと閉じられていく。 隙間には、晃暉のスウェットの左裾と、裾を握る少女の右手。金属の扉が、少女の手を挟む準備を進めていく。晃暉が行っていく。 「ちょ……」 門扉の動きに左目を見開いた少女は、左手を伸ばした。門扉と右手が接触する寸前、門扉が動きを止める。 押し返す左手。スウェットの裾を握る右手。そして、怒りを放つ表情。三つの行動に注力しながら、少女は四つ目に、怒りを吐き出した。 「暴挙に出たね。人として最っ低」 「人の話も聞かないで、付き纏う君も似たような者だ。手荒な真似でもしないと、君は立ち去らないだろう」 「怪我する──ってか、骨折れるところだったんだけど」 「嫌なら離せ。それで済む」 「絶対、離さない」 「だったら、怪我しても自己責任だ」 「おじさんのせいだから」 「そうさせてる君の責任だ」 門扉を押す晃暉。押し返す少女。一進一退の攻防が、甲高い金属音を寝静まる住宅街に響かせる。怒気を含んだ舌戦が、夜空に木霊する。 発する声の大きさ。行う音の大きさ。晃暉も少女も、慮る気配を向けていない。互いに、眼前しか意識していない。 門扉の攻防。スウェットの攻防。一つを攻めて、一つを守る。それだけが、二人の意識を埋めていた。
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