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──ガチャン。 玄関の扉が開かれても、二人の意識は向かなかった。 「……何してるの?」 遊馬家。扉を開けた男性は、門扉の攻防を目にして、呆れを含ませた調子で言った。 「兄さん」 「雄貴か。丁度いい」 「兄さん?」 少女が訝しげに顔を動かす。 整えられた、黒髪の短髪から漂う清潔感。呆れを含んだ、それでいて柔和を思わせる微笑。白のTシャツの上に羽織ったチェックのシャツに、スラッと伸びた足を包む黒のジーンズ。百八十センチ後半の、高身長。 好青年と呼ぶに相応しい男性──遊馬雄貴が、門扉へと歩み寄っていた。 「雄貴、助けてくれ。絡まれてる」 「絡まれてるって……」 晃暉の背後から、門扉の外へと目を向けた。少女と目が合う。右目に眼帯を装着した少女。雄貴は微かに、目を見開いた。 「兄、さん……」 門扉の攻防。スウェットの攻防。手を緩めずに、少女は雄貴を凝視した。 切れ長の目。すっと通った鼻筋。柔和に形作られる唇。目鼻立ちの整った顔は、凝視によって、徐々に困惑を浮かべていった。 「えっ、と……。女の子に絡まれてるの?」 「侮るな。性悪だ」 「俺の目には可憐な女の子に見えるけど。その言葉は、正しくないんじゃない?」 「知らないから、そう言えるんだ」 「兄さん」 兄。何度も反芻した少女は、口許をニヒルな笑みに変えた。 「兄さんってことは、おじさんの弟ってことだよね。弟、いたんだ」 「いたら悪いのか」 「だっておじさん、私に、おじさんじゃなくてお兄さんって呼べって言ってたから。妹が兄を呼ぶみたいに猫なで声でって。だから、そういう願望がある可哀想な人なんだって」 「要求していないことを付け足すな」 「そうだったんだ。ごめん兄さん、気付けなくて。今日からそう呼ぶよ」 「お前も惑わされんな」 「冗談だよ」 顔を綻ばせて、ふふっと小さな笑いすら吹き出して、雄貴は兄の背中から離れた。
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