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「兄さん」
ゆっくりと、視線が移る。
「女性に対しての暴力はいけない。そう言うことだから。肝に銘じるように」
「俺はただ、家に帰ろうとしてただけだ」
「兄さん」
白を切る晃暉。雄貴は呆れから眉をひそめた。
雄貴と少女が押し返す、門扉の攻防。ニ対一の戦いで、遮断の成功は著しく遠ざかっている。叶わないと、晃暉は諦めた。門扉から手を離した。
せめてもの抵抗とばかりに、少女に訝しげな視線を送る。
「未成年じゃないと言うが、自分でそう言っているだけで、何の証拠もないぞ。簡単に騙されるな」
「騙してない。私は──」
影を潜めていた居丈高が、スイッチを切り替えたかのように、一瞬にして姿を現す。怒りに任せて放たれる悪態は、けれど最後まで発されなかった。
遮ったのは、雄貴だった。手の平を向けて制止を促す真摯な態度が、少女の口を噤ませる。
「理由二つ目」
静かな怒りが、漂う。
「兄さんと彼女がどんな関係か知らないけど、目を合わせれば言い争いが始まるのは分かった。それが徐々にヒートアップしていくのも」
「俺は自重してるさ」
「できてないよ。玄関の前から言い争う二人の声と、門扉がガシャガシャ響く音が聞こえて、俺は様子を見に来たんだから。もうすぐ日付が変わろうとしてたよ。そんな時間にヒートアップする口論は、近所迷惑以外の何物でもない。やり合うなら」
キイィー。静かに、門扉が開かれる。
「中で」
「おい」
大きく開かれた門扉を押し返すように、少女の侵入を防ぐように、晃暉は再び門扉に触れた。封鎖を試みて力を込めるが、反発する力が、扉を動かさない。力の主を、晃暉は睨んだ。
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