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「アリアさんは今や立派な冒険者ですのに、いつまで経ってもよその金払いのいいギルドに行きませんねえ?」
その日は、顔見知りだけで依頼を引き受けていた。
アリアは大きなパーティをつくることなく、常にギルドでパーティをつくってないメンバーと臨時パーティをつくって活動していた。
それにアリアは困った顔をした。
「ここは私の故郷が近いから。閉鎖が未だに解けないんだ」
「ああ……あそこですか」
ゴブリンに制圧された村は、基本的にゴブリンにさらわれた女性が死ぬまでは放置していることが多い。ゴブリンは人間の女性がいなかったら個体を増やすことができず、万が一ゴブリンの母体になる女性を殺してしまったら、次の女性を求めて他の村を襲いかねないためだ。人身御供にされてしまった女性には気の毒だが、他の村を守るためにも、定期的にその人身御供は暗黙の了解で行われていた。
一緒に魔法石採集をしていた魔法使いのリトは、アリアに頭を下げた。
「すみません。余計なことを言ってしまって」
「いや?」
「でもそろそろその村の閉鎖も解けるんじゃないかい?」
そう口を挟んできたのは、元騎士団員のミリィだった。追放された訳ではなく、単純に団長が王都に引き抜かれてしまったために騎士団が解散してしまったので、仕方なく冒険者ギルドに入ったクチだった。
「そうなのか?」
「王都に行っちまったうちの団長が、近々ゴブリン駆除の依頼を出すかもしれないから、近隣の町村守るのに協力してくれってさ。あの辺りに新しく街道をつくりたいけれど、ゴブリンのせいで工事が難航しているらしいから、いい加減本格的に駆除に入るって」
「……そうか」
アリアはそう言うので精一杯だった。
彼女は怒りで満ちている。
(あいつらを……ようやく血祭りに上げられるのか)
短く切り揃えられた髪は怒りで逆立ちそうになり、目は爛々と輝いている。
それをリトとミリィは困った顔で眺めていた。
ゴブリン駆除の依頼が入ったのはその次の日であった。
ゴブリンは女性を見つけたら、ゴブリンの母体にするためにさらう習性がある。その習性に逆らうため、基本的に男性だけで討伐し、巣に火を放つのが本来のセオリーだが。
なんと今回の駆除依頼を受けた臨時パーティは、全員女性だったのでギルドマスターは当然ながら頭を抱えた。
「……女ばっかりで行って、救援依頼なんて出せないよ? うちはカツカツなんだから」
「いえ。ギルドマスターには迷惑をかけない」
「でも! せめてひとりでも男を……」
「いえ。あいつらに後悔させてやるから……その脳髄に叩き込んでやる。生まれてきたことを後悔しながら死ぬがいい」
それは絵本に出てくる魔王の台詞ではとは、さすがに彼女の事情を知っている誰もがつっこむことはできなかった。
アリアと一緒にパーティを組むことになったリトとミリィは、それぞれ作戦を立てはじめた。
「でもマスターの言うとおり、女だけで行ったら確実にさわられるけど」
「むしろさらわれることを狙っているが」
「……それ、危なくない?」
「……たくさんこの手で殺せるから」
普段のアリアは、表情筋が死んで、そのせいでクールな顔に見えるが。今のアリアは歯茎を剥き出しに、まるでゴブリンのような笑みを浮かべている。
もちろんリトもミリィも余計なことは言わなかった。
「でも巣穴に連れ込まれるとしたら、そのまま火を点けて逃げたら、蒸し焼きになるよ? 勝算はあるの?」
「魔法は習った。剣も習った。殺し方もずっと考えて、魔物討伐の際に実践も積んだ。だからゴブリンでも大丈夫だと思う」
「まあ、このパーティが一番やりやすいしね。それで行こうか」
魔力回復のためのポーションを鞄に詰め、得物を磨き上げて、服はできる限り動きやすい革鎧を付ける。
こうしてアリアは、数年ぶりに故郷に帰ることになったのである。
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