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僕の祖父は、雪の積もる地域にネギ畑を持っていた。
冬になると、だだっ広い土の平原の上に、よく二三十センチの雪が毛布のように積もった。
冬休みで祖父の家に遊びに行ったある日、夜明け前に起き出してふと見ると、祖父の軽トラックの荷台に雪が積もっていた。
荷台の上に、街灯に青く照らされた雪の塊がこんもりと載っている様子は、子供の僕にとって珍しくて魅惑的だった。
軽トラックの上によじ登り、荷台の雪の上に足を下ろした。
ずぶりと足が雪に埋もれた。
あ、面白い、と思って荷台の真ん中へと進んだ。
新雪は、一歩ごとに僕の体を深く呑み込んでいく。
僕の足は、荷台の上を進むにつれて、くるぶし、足首、すね、ひざ、とどんどん雪に埋まっていった。
ひざ、腿、股。
腰。
あれ、と思った。
軽トラックの荷台って、こんなに広くて深かったっけ。雪も、そんなに積もっていたっけ。
足のつかないプールに踏み入ったような気になった。
少し怖くなって、引き返そうとした。
それでも一歩ごとに体はどんどん雪に沈んでいく。
腰骨。へそ。腹。
でも止まるわけにはいかない。
荷台のへりにたどり着かなくてはならない。
胸。肩。首。
とうとう僕は悲鳴を上げた。
助けて、と両親を呼んだ。祖父も呼んだ。
恐ろしくて、もう足は前へ進まなかった。
なのに、体はさらに沈んでいく。足はまだ下につかない。
あご、口、鼻。
目までが雪に呑まれた。
視界が真っ白になり、やがて暗く染まっていく。
とうとう全身が雪の中に包まれた。
辺りは真っ黒だった。
それがいきなり、まばゆい白色に変わった。
気がつくと、僕は軽トラックの荷台の上に座り込んでいた。
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