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雪は、せいぜい三十センチほど積もっていただけだった。
荷台の上に立ち上がると、普通に足が底につき、へりから飛び降りて、僕は地面を踏みしめた。
夜が明けようとしていた。
周囲が朝日に照らされていく。
僕は、安堵の涙を浮かべながら、祖父の家の中に飛び込んだ。
そこには、理由もなく毎日やたら早起きする祖父と、朝の食事の支度のために起き出した母がいて、もう起きていたのかと二人で驚きながら僕を迎え入れた。
でも二人とも、昨日までの祖父と母とは、違う顔をしていた。
僕は震えながら朝食をとり、夢を見ているのかと何度も頬をつねった。
朝食を済ませた僕は、もう一度あの軽トラックへ向かった。
すると祖父が、邪魔な雪を川に捨てに行くからと言って、荷台にさらに周りの雪を積んで出発したところだった。
帰ってきた軽トラックには、もう雪は載っていなかった。
その荷台に飛び乗っても、なにも起こらなかった。
あたりの雪を泣きながらつかんで荷台に載せ、その上に僕が乗っても、ただ足が硬い底につくだけだった。
そんな僕を、違う顔の祖父と母が心配そうに見つめていた。
帰郷が終わり、家に帰ると、父も、近所のおじさんやおばさんも、全員が違う顔になっていた。
冬休みが終わり、学校が始まると、先生も同級生も、テレビや動画に出てくる有名人も、全員違う顔だった。
■
あれから暖冬が進み、祖父の土地にも雪が積もらない。
軽トラックの荷台を覆うほどの雪は、もう降ることはないのかもしれない。
僕は違う顔の人々に囲まれながら、もうもとの祖父や母の顔も思い出せなくなっている。
僕がもといた世界は、雪の思い出の向こう側へ行ってしまった。
終
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