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そこまで言って私はハッとした。年上で趣味が合って、迷惑かけられるなって思える人。
「じゃあ大学で好きな人ができる可能性は低いかもね。年齢近い人しかいないし。職場恋愛するしかない、倫みたいに」
村松さんが倫と呼ばれた同期を見て言う。「男の人、少ないですけどね」と小薗さんが言った。
「気になる人とかできるといいね」
村松さんが微笑んだ。私は「はい……」と言う。そのまま村松さんはまた事務所に戻っていった。私は彼の後ろ姿を目で追いかける。
年上で趣味が合って、迷惑かけられるなって思える人。
「勉強になりました。やっぱり村松さんってすごいですね。私と歳あんまり変わらないのに、脱帽です……」
「ですね、すごいや村松さん」
年上で趣味が合って、迷惑かけられるなって思える人。今まで考えたこともなかった。いざタイプが明確になった瞬間、近くにいた。
心が震えるのが分かった。久しぶりの感情に心が動揺しているのかもしれない。現に頭の中は処理がこの事態に追い付いていなかった。
村松さんの手を思い出してみる。大きくて、骨ばっていて、私の手とは似ても似つかないようなまさに男の人の手。あの手に触れてみたいと思った。
どくん、と何かが鳴った。体の内側が震えた気がした。久々の感情に全身が浮き足立っている。
俗に、灯台下暗しとはこのことかもしれない。気づいた瞬間、認識した瞬間、心が振動するのが分かった。
(了)
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