幼馴染を愉快な顔にするための実験記録

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 十匹の雪うさぎを作った僕達は、秀くんの家に向かって歩く。  秀くんが変な実験を始めたのは、小学四年生になってすぐだった。  もとからナントカ図鑑だとか、ホニャララ科学だとか、そんな系統の本を読んではいたけど、「理科が好きな男の子」に収まる範囲内だった。  僕が助手をしただけでも、ヘンテコ実験を百回はやっていたはずだ。僕が助手になるのは冬の間だけなのに。  僕が助手を務めた最初の実験は『熱中症という忌まわしき病を根絶するための、舐めただけで体温を下げる飴の発明』だった。  その実験結果?  口の中がとんでもなく甘ったるくなっただけ。  *  秀くんの家は、窓から差し込む夕焼けに照らされている。  僕は、秀くんの両親に会ったことがほとんどない。今日も家の中は空っぽだった。  コンパクトな台所に僕を置いて、秀くんは自分の部屋に行ってしまった。  台所から見えるテーブルも椅子も、落ち着きのある茶色だ。誰も座っていないからかな、何だかさみしそうに見える。 「よし、この装置に雪うさぎを入れて保護するんだ」  悠然とした足取りで戻ってきた秀くんの手には、白色のカプセルのようなものがあった。  上半分が開くようになっていて、そこから雪うさぎを投入できる。  雪うさぎを収納しながら、僕は聞いてみる。 「これはどういう入れ物なの?」 「快斗は、熱を通しにくい物質を知っているか?」 「え? うーん……木とか? 暑さから家を守る壁! ってCMでやってた気がする」 「いい着眼点だ。だが、木よりも熱伝導率の小さいものがある」 「何?」 「空気だ」  秀くんは、雪うさぎを入れたカプセルをパタンと閉じる。 「このカプセルは二層になっていて、層の間に空気が入っているんだ。空気によって熱の通りを鈍くし、雪うさぎを保護する」  なるほど、と感心しながらカプセルを見ると、南天(なんてん)でできた赤い目と視線があった。 「目は隠さないの?」 「視界を奪ったら迎え撃てないだろう」  秀くんは、この雪うさぎを何と戦わせるつもりなんだ……あ、電子レンジか。  でも、電子レンジは銃も撃たなければ剣も振るわない。どうして目を開けていることにこだわるんだろ。
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