幼馴染を愉快な顔にするための実験記録

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「実験開始だ」  カプセルをレンジに入れた秀くんは、期待に輝いた表情でボタンを押した。その顔を女子に向けてあげればいいのに。  レンジの中でくるくる回るカプセルには、何も変化がない。だから僕は秀くんに顔を向ける。  秀くんは雲の上の人だ。幼馴染という特権がなければ、こうして助手になることはなかっただろう。  チーンという安っぽい音が、僕の意識をレンジに戻した。  カプセルを取り出した秀くんは、それを皿に移して、中を開ける。  雪うさぎは跡形もなくなっていた。 「溶けちゃったね」  僕の言葉に、ほんの少しだけ目尻を下げた秀くんは、カプセルを観察し始める。 「下の部分が特に熱い……接地面の耐熱性が脆弱(ぜいじゃく)なのか」  秀くんは、目にも止まらぬ速さでノートを開いた。あまりの速さだから、僕は表紙を見たことがない。  秀くんは、さらさらと何かを書いていく。実験の時には必ず記録をつけているんだ。 「土台を入れることでカプセルを浮かせて……よし、これで試そう」  秀くんがレンジに細工をするのを、僕はぼうっと眺めていた。  秀くんの奮闘もむなしく、残りの九匹も全滅したところで、今日の実験は終了した。  *  家に帰った僕は、青いベッドの上でアルバムを広げた。今日、学校で配られたアルバムだ。 「卒業アルバム、見てみようかな」  最初からページをめくっていく。ページが進むのつれて、写真の中のみんなが大人になっていく。後半に差し掛かった時、僕の写る写真は激減した。 「まあ、そうだよね」  溜息をつきながらページをめくると、キラキラと輝く水色の海が飛び込んできた。見開きを丸々使った、贅沢な写真だ。  右下に『六年生 修学旅行〜沖縄 七月五日〜八日』と書かれている。 「これが沖縄の海かー……」  サーダーアンダギーを頬張る男子や、首里城を背景にピースサインをする女子。楽しかったんだろうな。いいな。 「沖縄……行きたかったな」  太陽を浴びながら海に潜ってみたい。社会の授業で習った首里城を見てみたい。  その後もアルバムを眺めていたけれど、いつの間にか眠ちゃったみたいだ。次に目が覚めた時には、朝日がお仕事を始めていた。
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