幼馴染を愉快な顔にするための実験記録

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 ——人生で一番泣いたあの夜から年月がめぐり、僕は二十四歳の誕生日を迎えた。  今年は暖冬だったせいで、病院の個室でのお祝いだけど。  ……秀くんとお別れしてから、十二年か。  秀くんのことを思い出さなかった日は、なかったと思う。  雪が降る日は特にそうだ。  秀くんが居てくれた時は、冬が唯一の楽しみだった。みんなと同じように外に出ることができたから。秀くんと実験をできたから。  だけど今は、冬が一番嫌いかもしれない。  雪を見る度に、僕に何も言わずに去ってしまった秀くんを思い出すから。  雪の思い出は、秀くんとの思い出とイコールで。  僕は、秀くんとの真っ白な思い出を、閉じ込めようと必死だった。 「はい、快斗。お父さんとお母さんから」  したり顔のお父さんと、にこやかなお母さんが渡してくれたのは、世界の名所の写真集だった。 「ありがとう」  僕は作り笑いを顔面に貼り付ける。  雪解病の僕が観光できるところなんて、北極、南極、オイミャコンくらいだろう。  綺麗な写真を見せられても、当てつけとしか思えない。 「快斗くんにね、もうひとつプレゼントがあるの」  不気味なくらいに完全な笑顔の看護師さんが、僕の手のひらの上に何かを置いた。  絵の具のチューブみたいな何か。 「これは……?」 「どこかの大学院の人が開発した、遮熱クリームよ」 「遮熱……?」  その単語を聞いた時、期待と疑念が同時にわいてきた。  暖かい空気から全身を守ってくれる? 宇宙服みたいな完全防備をしなくてもいい?  でも、そんなことできるわけ…… 「ね、塗ってみよう」  看護師さんに急かされて、僕は右手にクリームを塗る。薄い白色のクリームが肌に触れると、冷たさに思わず声を上げてしまった。  看護師さんに言われるままにクリームを塗り進める僕を、お父さんもお母さんも笑顔で見守っている。  二人とも、このクリームの正体を知っているんだな。  クリームを塗り終わった僕の手を、看護師さんが軽く引っ張った。 「さあ、春の中庭を歩きに行こう!」 「え、で、でも、溶けちゃう——」  抵抗も虚しく、看護師さんに手を引かれるまま、病室の外に踏み出してしまった。
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