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幼馴染を愉快な顔にするための実験記録
「今日は、愚かな現代文明に抗う雪うさぎを作るぞ」
ほどよく低くて、耳触りのいい声だ。この声で告白をされたら、昇天する女子は後をたたないだろう。
そんな美声を無駄遣いしているのは、月野秀くんだ。
二月の通学路は、色とりどりのランドセルを背負った小学生で賑やかになっている。
足を前に出す度に、雪を踏む音がする。北海道に住む小学生は、雪道の通学に慣れっこだ。
僕、陽山快斗は小さな公園にいた。
冬の公園に寄り道する理由は、幼馴染である秀くんの助手をするためだ。
六年間使ってきた青いランドセルをベンチに置いた僕は、細い腕を使って、楕円形の雪玉を作っていく。その目的が謎の雪うさぎを生み出すことなわけだから、聞かざるをえない。
「何で?」
「大人達は、地球温暖化だとわめきながら、電子レンジという文明を用いて、自ら物体に熱を与えているんだぞ。控えめに言って馬鹿だ。矛盾の具現である電子レンジに立ち向かう、そんな雪うさぎを作り出すんだ」
真剣な表情で電子レンジに喧嘩を売る小学六年生なんて、秀くんしかいないだろう。
雪うさぎを作る秀くんの横顔は、女子一同を溶かしてしまうはずだ。テストではいつも一番だったし、運動会ではリレーのアンカーを務めて大活躍だったとか。
こんな漫画の主人公みたいな子がいたら、モテないわけがなくて。名前通りの優秀な子だ。
ちなみに僕は自分の名前が好きじゃない。名前負けもいいところだから。
僕はベンチに置かれた黒いトートバッグを見る。あれには、女子から秀くんに贈られたチョコが詰め込まれている。
みんなの前では、クールでスマートな秀くんに、勇気を振り絞ってチョコを渡した女子達の気持ちを思うと、僕は虚しくなる。
チョコを渡しながら「放課後遊びに行かない?」と、震える声を絞り出したっていうのに「用事」の一言で断られたあげく——
「おい、快斗。手を止めるな。実験の期限が迫っているんだぞ」
その用事っていうのが、意味不明な実験なんだから。
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