第1章・呪縛 2ー①

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第1章・呪縛 2ー①

光司の緊張し通しだった宮殿入り初日は、初めて寝る場所にも関わらず、疲労の余り死んだように爆睡してしまい、隣にスウェイドがいた事すら分からない程だった。 翌日もハードスケジュールで、とにかく側室である為に病気を持っていないかの検査から、有名デザイナーの採寸から、宝石商やら、家庭教師が付いての勉強のプランを立てるだのと、とにかく目まぐるしい1日だった。 その度に、こんな宝石はいらないからスラム街に寄付してくれだの、自分は安い服で良いから、恵まれない子供達にも服を与えてくれだの言うものだから、スウェイドも「心の広い側室だろう?」と誇らしげに家臣達に自慢する有り様だった。 挙げ句の果てに、自分の食べる食事をスラム街に持って行くと言い出して、流石にそれにはスウェイドも呆れた。 「お前を太らす為に出した食事だ。残さずに食べろ」 「こんな何人分の料理か分かんねー量なんか食べきれねーよ!勿体無いから、リエカさんと、エレナイと、アブドルを呼ぶ!今日はこれで良いけど、明日からは普通の一人前にしてくれ!」 呼ばれたリエカ達は大層 喜んだ。 リエカは今日も清楚な白い長めのヒマール(頭髪をかくすストール)に、同じ生地の白いロングドレスで、その匂い立つ薔薇の花のような美しさを際立たせていた。 エレナイとアブドルは、部屋に入るなり光司に飛び付き、順番に抱き上げてぐるぐる振り回すものだから、衛兵達が周りでビクビクとしていた。 光司は「そんな白い綺麗な服に、食べ物を落としたら汚れちゃうから、気を付けてね」と言うと、リエカはコロコロと笑い出した。 スウェイドは、こんなに笑ったリエカを久しぶりに見た気がすると思った。 昨日の夕食会と随分違う明るい食卓に、光司は宮殿に来てから初めてゆったりと和んでいた。 「コウジ、お誘いありがとう。おまけにエレナイとアブドルに食べるお手伝いをしてくれてありがとう」 「俺、小さい子の面倒はずっとみてきたから。リエカさんも、俺に優しくしてくれてスゲー嬉しい!」 リエカは微笑みなが、スウェイドに視線を移した。 「殿下。今日は私達だけですし、少し込み入ったお話をしとうございます」 「なんだ。リエカ」 「先だっての、私を正室にとのお話ですが、お断りさせて頂きます」 楽しかった雰囲気が一瞬にして凍てついた。 「私の気持ちは、一生変わる事はありませんので、これからも貴方と夜をご一緒する事はございません。もし、殿下に跡継ぎが出来ないようであれば、アブドルを王位継承者に任命して下さって構いませんが、その際、私が国母になる事は遠慮させて頂きます」 「リエカ、私はお前を……」 「殿下のお気持ちは、郷愁に似たものでございますよ。私も殿下を尊敬させて頂いておりますので、これから正妃に選ばれる方には精一杯、尽くす所存でございます」 いつも自信に満ち溢れているスウェイドが、泣き出すのではないかと心配になる程に、リエカをすがるような目で見つめていた。 光司は、大人しいリエカの、存外に頑なな意思の強さに驚いた。 そして、言葉のないスウェイドに子供達が駆け寄り、抱き付いていった。 「父上、僕、誰も王様にならないんだったら、父上の跡継いでもいいよ?」 「アブドルだけじゃ心配だから、私が横に付いててもいいし」 スウェイドは自分を慰めようと必死な子供達を愛しいげに見つめ、二人を両肩に担ぎ上げ、ぐるぐる回転した。 子供達のキャッキャッと喜ぶ声が凍てついた空気を溶かした。 「リエカ、お前の気持ちは良く分かった。私も、違う者を正妃にする事にする。だが私は……」 子供達を下ろすと、二人は光司に駆け寄っていった。 「だが私は、今も兄上が羨ましい」
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