バックストレッチ!!!

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 目の前の世界が変わって見える。  じいちゃんは言う。  静かな風と空気を切り裂くようなモーターの音、水面上からひしひしと伝わってくる緊張感。  十二秒の針が真上をさした時僕の視線は迫りくる六つの艇に釘付けになっていた。  あの水面上に立ってスロットルレバーを放ったとき、あれだけ騒がしかった声や音が静かになって、微かに第一ターンマークを最短で旋回する軌跡が浮かび上がってくる。道みたいに。それを辿る様に波を握ると何もかも置き去りにして走ることができる。  最後の直線に入ったときようやく歓声が聞こえると風の心地よさを感じて視界が晴れる。  勝つ未来が見えてるのかって?   いやそうじゃない、いつもはそんなものは見えないよ。けどそれが見えたときには必ず風が観客の声をこの耳に届けてくれるんだ。  まぁそんなことは偶然かもしれないけど。  僕にも感じられるかな? そう訊ねるとじいちゃんは決まって微笑んで言ったんだ。  そりゃ俺にも分からんさ、でも凪人が勇気を出して一歩踏み出せたら神様がご褒美をくれるかもしれないぞ。  つい最近までの記憶。  二年前、競艇学校の入学式の日。大好きだったじいちゃんは天国に旅立っていった。  高校生活に馴染めずに引きこもりがちだった僕がボートレーサーになりたいと言ったときじいちゃんは少年のように目を輝かせて嬉しそうだった。  頑張り屋の凪人だったら絶対良いレーサーになれるさ。  じいちゃん。僕、プロになったよ……。  
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