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発 見
獣たちの群れから逃れてチャーリーは水の流れない川の跡まで辿り着きました。けれど安心はできません。空には大鳥たちがチャーリーの行方を探し廻っているのですから。
岸のふもとを覆っていた巨きな岩石のくぼみにその身を隠しながら、チャーリーはこの先の思案をしていました。
(悪いことなんかこれっぽっちもしていないのに……)
それが最大の不満でした。
(ま、ときおり、理由もなく威張り散らしたことはあったけど……)
それが最大の後悔でした。
かつての善良なる部分を喪失していたおのれの現在の姿に対する少しばかりの羞恥といっていいかもしれません。
ため息すら出ないチャーリーの左目が岩の裂け目を捉えたときでした。
(おや……)
チャーリーは驚きました。
蝶の羽のような小さな小さな青葉を見つけたのです。
(水もないところに……どうして?)
それが最大の発見でした。
そうして、新鮮な驚きでもありました。岩のなかに蓄えられた微量の水分を吸収しているのでしょうか、それとも岩から地下へと細い細い根毛を掘り下げ、拡げ、深く、細く、長く伸ばし続けたのでしょうか。その詳しいことはチャーリーにはわかりません。
そして、さらに目を凝らしていると、それこそ小さな小さな小さな生きものが蠢いていることを発見したのでした。
(ひゃ、ひゃあ)
なんということでしょう、目に見えるか見えないほどの微生物たちが、せっせと動き、生きていることに、チャーリーは驚かされました。
(なるほど、大地は生きているんだ)
ふと、そんなことをおもいました。形而上的なその一瞬の思いは、チャーリーの脳裡の底に積み重なり、
(そうなんだ、大地は……孤独なんかじゃなかったんだ)
などと、突飛な、それこそほかの誰かが耳にすれば鼻で嗤い捨てるかのような、そんな思念がチャーリーをとらえました。
すると。
たちまちチャーリーの左の目頭が熱くなると、ぽとり、ぽとりとしずくが落ちはじめたのです。
……とはいえ、哀しかったわけでもなく、嬉しかったわけでもなく、それは喜怒哀楽の情というものを超越したなにかこころの奥底を揺さぶった刹那の衝動のようなものだったのかもしれません。
ぽとり。
ぽとり。
ぼとり。
ぽつん。
ぽちゃ……
チャーリーの左目から落ち続けるしずくは止まることはありません。
やがて。
それが、乾ききった川に満ちあふれ……流れを生み出し……大地の隅々にまで染み渡り……
チャーリーの姿も、みずからの雫の流れのなかに埋もれていきました。それでも、左目からのしずくは止まりません。チャーリーはただ、
(これでみんなからの頼みごとに応えてあげられたんだ)
と、おもいました。
そのことを考えるだけで、なぜか、からだがふわふわと天まで昇るかのように軽くなるのでした。
そうして。
至福に満たされたその含羞の表情というものは、いつまでもいつまでも変わることはありませんでした……
( 了 )
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