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- 番外編 - 飯嶋×琉威(後編)
バスルームで熱いシャワーを浴びながら、二人は辛かった時間を補うかのようにキスをし合った。
お互いの身体を優しく洗ってやりながら、飯嶋は琉威の後ろの穴を解しにかかる。琉威も、飯嶋の前で屹立するソレを、ぎこちないながらも両手で包み込んで丁寧に掻いてやった。
温まってすっきりとした身体をバスタオルで拭き取り、琉威たちはベッドへと傾れ込んだ。
琉威は今日こそは彼のものを受け入れようと決める。
「友、お願い…挿れて…」
胸へと吸い付く彼へと、琉威は懇願するように囁いた。
「うん。でも待って、まだ狭い」
バスルームでは指二本が限界だった。このままジェルを使って押し込んでも、琉威に負担がかかってしまいそうで飯嶋はもう少しばかりと指をもう一本増やしていく。
胸から走る甘い疼きをどうすることもできずに、琉威は身をよじって快感をやり過ごした。
飯嶋の指が敏感な部分を擦り上げると、胸の刺激と相まって琉威はたまらず嬌声をあげた。
「ふ…ぅ、あ…っ! ゆう、ゆう…!」
早くとせがむ琉威に、まだだよと呟いて、飯嶋はその唇をも吸い付く。舌を掬い上げるようにして吸い上げると、琉威の胸がヒクリと波を打った。
指を抜いた飯嶋は、代わりにもう限界の近い自身をあてがう。琉威の入口が待ち侘びたそれを誘うように、中へ中へと受け入れていった。
(苦し…)
指とは比較にならないほどの大きさが、琉威を深く穿つ。飯嶋は一度、琉威の両足を抱え直すと、ベッドへと押し潰すようにして腰を打ちつけ始めた。琉威からは息を詰まらせたような吐息が小刻みに漏れる。幾度か打ちつけていくと、それも甘い吐息へと変わっていった。
琉威は揺れる身体に翻弄されながら、打ち付けるその強さに呼吸さえ忘れてしまいそうになった。
しかし、その定期的に打ち付ける動作に合わせるようにして、甘い痺れが喉から頭へと競り上がっていく。
(い…息が…)
呼吸が間に合わなくて苦しい感覚を味わいながらも、琉威は我慢できずに自身のものを吐精させた。
「…ッ! ゆ…う…っ!」
苦しい中、やっとのことで名前を呼んで、琉威を穿つ飯嶋のそれを締め上げた。
飯嶋は顔を顰めながらも自身のものも吐き出す。声を詰まらせた後、ゆるく揺らすようにして徐々に腰を引いていった。
「はぁっ、…」
飯嶋からも吐息が漏れる。
半ば放心していた琉威の、髪で隠れたその目元をあらわにするようにして、飯嶋はそっと彼の髪をかきあげてやる。
うっすらと覗いた瞳は、呼吸を整えながらも、また心配そうに覗き込んでいる飯嶋を見つけた。琉威は小さく微笑む。
「友…、心配しなくても、大丈夫だから」
それだけ言うと、琉威はそのまま深い闇へと吸い込まれるように、疲れた身体とともに眠りの淵へと落ちていった。
月曜日。
琉威はいつものごとく、九階事務所のフロアに入ろうとした。しかし、通りすがりの社員らが、何事かといった様子で出入り口を振り返っている。そこには営業部長の宮崎が、両腕を組んだ格好で冷たそうな眼差しのままドアの横へと立っていた。
宮崎は琉威の姿を確認すると、そのまま琉威の前まで歩み寄る。
琉威はギョッとしてその端正な顔をした男性と対峙した。
「君だね? 飯嶋の…」
急に確認をとるべくして話し始めた宮崎に、琉威は慌てて腕を引いて近くの休憩室へと引っ張り入れた。
「ちょっ…! あんな場所でいきなり何をいい出すんですか…!」
すると宮崎からは、「わからないように話すんだから別に構わないだろ?」と、さらりと言い返されてしまう。
そんなに気にしなくても誰も気に留めやしないとさえ、宮崎は付け加えだ。
(いや…この人は、このフロアの女性陣の怖さをわかっていない…)
そんな宮崎に、琉威は逆に心配にさえなってくる。
「飯嶋からは、もう聞いてると思うけど」
「…はい。聞きました。何でしょうか?」
琉威はもう、開き直るようにしてその宮崎の話を促した。
「飯嶋から君のこと、うざいくらい散々聞いたよ。でも、こないだは君との先約があったなんて知らなかったんだ。キャンセルさせて悪かったと思って」
後で事情を知ったらしい宮崎は、ようは自分のせいで変な誤解をさせて悪かったと謝りにきたようだ。
琉威は小さくため息を吐いた。
「いえ…。もう、大丈夫ですから。ご心配いただいてありがとうございます」
丁寧にお礼を言って、もうこの話はやめましょうと切り出すと、宮崎はふっと笑んで琉威を見下ろした。
「飯嶋の、ドストライクゾーンってわけか」
いつも無表情なその目は、普通にしているだけで鋭かったが、そう言って笑う彼は穏やかでとてもキレイな表情をしていた。琉威でさえ見惚れてしまいそうだった。
「飯嶋の話を聞いていたら、私も何だかあてられてしまったみたいだよ。そういう相手が欲しくなった」
そう言って宮崎は片手をヒラつかせて休憩室を出ていく。
(だから、仲介役を友に頼んだってわけか…)
琉威の中に残っていた疑問も次第に晴れていき、琉威はヤレヤレとフロアへと戻っていった。
「あれ? 今のって、宮崎部長じゃなかった?」
津田は、歩いていく宮崎の背中を見つけてそう琉威へと尋ねる。
「そうですね」
琉威は他人事のように、まだ手に持ったままの鞄をデスクの下へと置いた。
「へぇ、珍しい。あ、飯嶋部長に用事だったのかな」
「……」
この人はどこまで人間同士の繋がりを把握しているんだろうかと、琉威は津田のことを一目置かざるをえない。本当に侮れない人だと胸へと刻みこんだ。
「あ、噂をすれば」
そう呟くと、津田はさっと琉威から離れていった。
来たのは飯嶋だった。
「おはよー、琉威!」
軽く挨拶を交わして肩に手を置くと、そのまま通り過ぎる。
「おはようございます」
その背中へと、琉威は挨拶を送った。
彼とは今日これで二度目の挨拶となる。同じフロアで働くうえでの暗黙のルールとなった。
(っていうか、今、社内なのに名前呼びじゃなかった?)
そう気がついて琉威は振り返るが、飯嶋は素知らぬ顔で津田にも挨拶をかけている。たぶん、本人はこれを定着させる気だろう。
(まぁいいか。津田さんにも名前呼びだし、オレからは流石に呼べないし…)
「飯嶋部長ぉー! 私も名前で呼んでくださいよぉ」
変化に鋭い女性が、そんな要求を飯嶋にしていた。
「ダメぇ。女子に名前呼びはセクハラだろ」
相変わらず、飯嶋の周りは華やかだった。
飯嶋がフロアに現れると、どこかやっぱり空気が明るくなって、琉威の気分すらも一層上がる気がした。
それがただ本人の天性ゆえなのか。
それは、琉威のみぞ知るところかもしれない。
おわり。
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