不思議な館

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男性はデイビッドと名乗った。 「彼は我が社で雇っているアルバイトのジーマだ」 だいぶエリアJの訛が強い。 「ハイかマルチナがいればよかったんだがな」 サンダーは耳打ちをした。 「しかし…私は幸運だ。天使が二人も流れ着くなんて」 天使とは大げさな、と思いつつも、照れ笑いをした。 「君たちはどこの生まれだ」 「国籍ならエリアOにあたる地域です」 サンダーが答えた。 「君は」 トムは答えに困った。 エリアP民と言えばいいのだろうが、ジョージのような生粋のエリアP民ではない。祖母はエリアA民で、祖父との結婚には苦労したと聞いたことがある。つまり、自分はエリアP民でもあり、エリアA民でもある。父方の血と剣道と名前が自分とエリアPを繋ぐ糸だ。 「まあいいや。美しい人はどこにでもいる」 ジーマはじっと二人を見ていた。彼を簡単に形容するなら「綺麗」の一言につきる。穢れを知らない純粋な水を連想した。目の色はくすんだ青だが、ガラス玉のように澄んでいた。彼は多分二十歳そこそこだろうが、より幼くも見えた。
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