特殊業務部 嶺岸好芽 24歳

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特殊業務部 嶺岸好芽 24歳

「だから、仙台で呑んでたんす。したっけ人身事故かなんかで本線止まって帰れなくなって。てか1号配備ですよね。僕ら出るの義務じゃないですよね」  課長にそう言う三塚が俺を睨んだ。俺は平然とした態度を装った。課長から何やら言われた後三塚は「すみませーん以後気をつけまーす」と答えて自分のデスクに戻った。俺の背中に「真面目ちゃんがいるとこういう時に困るんだよな」と小言をぶつけるのも忘れずに。  確かに昨夜の状況では俺達ぐらいの平社員に出勤の義務はなかった。でも俺は職場と自宅が近いし、何よりも社長が心配だったから行った。「だから他の社員も来い」なんて俺は少しも思っていない。きっと三塚は課長に「嶺岸も来たんだからおまえも来るべきだった」なんて言われたのだろう。俺に文句を言われても困る。  夕方になりきっかり定時で席を立った三塚を見送った。「嶺岸君も早く帰らいよ」と言いながら課長も事務室を出て行った。俺は荷物をデスクに残したまま事務室を出て階段を下りた。エレベーターを使ったって誰にも咎められないのだが、「節電にご協力お願いします」などと言われると躊躇ってしまう。真面目で困っているのは三塚だけではない。俺自身困っている。
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