特殊業務部 嶺岸好芽 24歳

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「わかりました」と俺は頷いてブルーシートの端を押さえるように置かれた道具箱から鋏を出しアイスピックで留められた虫の体に刃を入れた。怪奇種は社長の手で種を特定された後はサンプルを指定怪奇種対策庁に送る。サンプル以外の残りは肉食の怪奇種を誘き寄せるための餌になる。本当は生きている状態で残しておきたい所だが、第二種以上の怪奇種を飼育することは法律で禁止されているためこうして体の一部だけを残して他は廃棄する。  昆虫型怪奇種の体液は基本的に色はない。獣を解体する時のようにそこらじゅうが真っ赤になることはない。取り出した肉は食べたものや糞で茶色くなっていたが、バケツの水で洗うと白くなった。 「いつも済まない」社長が言った。「無理なら無理でいいから」 「いえ。俺もやりたくてやってるだけなので」  骨が浮き出ている社長の青白い背中。彼が腕を動かす度にゴリゴリと皮膚の下の骨が盛り上がったりへこんだりする。期待してしまう自分が情けない。これが善意100パーセントでできない自分は駄目な奴だと思う。
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