特殊業務部 嶺岸好芽 24歳

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「俺は別に大丈夫」白濁した体液を確かめるように指を下腹部にくっつけたり離したりしていた。それから俺を見遣り「キスして欲しい」と言った。俺はゴクリと唾を飲み込んでから顔を近付けた。脚で俺の腰回りを固定しながら空いた手で頭を押さえ舌を出した。本人曰く短い舌が俺の舌に絡み付く。唇で器用に唾液を啜った。頭から離れた右手は昨夜の負傷が嘘のように真っさらになっている。血だらけで、皮がベロリと捲れていたあの腕が。 「すみません、優しくできなくて」 「嶺岸君に優しくして欲しいとは思っていない」 「でも、痛がって欲しくないしもっと気持ちよくなって欲しいのに、いつも俺ばっかりで」 「俺はそれでもいい」  好きだ。そう言ってしまえば良かったのかもしれない。だが想いを伝えることに意味はないとも思ってしまう。社長が誰のものにもならないことはわかっている。こんな、真面目さだけが取り柄の、優しくできない男のことなんて眼中にない。 「倉庫片付けないと」と呟き社長が立ち上がった。尻にタイルの跡が付いている。俺が先程使っていたスペースに入りシャワーを浴びた。俺はカーテンを捲った。 「片付けもやります」 「いいよ。帰らい」言いながらシャワーを止める。「嶺岸君の時間を必要以上に奪いたくはない」 「俺の時間は社長のものです」
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